第36章


[04] 



 異様な状況ではあるが、驚き竦んでばかりはいられない。言われた通りに物影を探し周辺を見渡す。
『サクラビスか。あまり目も頭も良い方ではないが、油断はするな。
そうさな、あの場所に丁度良い場所があるではないか。行け』
 言葉と共に即座に頭の中に暗い祠のようなもののイメージとその位置が浮かび、そこに向かって俺は一目散に駆け出した。
柱の間を縫うようにして走りぬけ、少し開けた所に出る。祠まで後もう少しと言うところで、
背後から少し籠もったような甲高い泣き声が発せられる。
駆けながら振り向くと、先程のサクラビスが十メートル後方にまで迫り、今にも渦巻く水流をこちらに放とうとしていた。

『あれに捕まるでないぞ。抵抗できなくなった獲物に鋭い口を突き刺し、ゆっくりと生き血を啜るのが奴らの嗜みと聞く』
 他人事のような言い回しに苛立ちを覚えながらも、何とか祠までたどり着き、滑り込むようにして中に入り込む。
その瞬間、竜巻のごとく渦巻く水流が外を過ぎ去った。巻き込まれていれば血を吸われる迄もなく窒息死していたのではないかと、ぞっとする。
 俺の姿を見失ったのかサクラビスは祠の上空辺りをぐるぐると見回り始めた。
そして、とうとう入り口を見つけたのかこちらへと向かってくる。
これはまずいと真っ暗な祠の奥に進もうとするが、すぐに何か固い感触のものにぶつかり、尻餅をついてしまう。
恐る恐る見上げると、幾つもの大きな丸い目がぼんやりと輝いていた。
『ふーむ、先客が居たか。無礼を詫びても、そやつは許しはしまい』





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