第36章


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 もう何度目かもわからない怪物の追跡により、また別の一室にヒカリ達は追い込まれる。
休まる暇も無く襲撃を受け続け、ヒカリとナタネは肉体的にも精神的にも疲れ果てていた。
この部屋では今度はどの家具が襲い掛かってくるのだろうか。怯えた様子で身構えながら室内を見渡す。
 部屋の奥には大きなテレビが置かれ、傍にビデオデッキが備え付けられている。
他は床にむき出しのビデオとそのケースで散らかっているばかりだ。
特に危険そうな物も何物かが潜んでいられるような場所も見当たらない。
 ヒカリは部屋の扉を閉めて急いで鍵を掛けた。少しこの部屋に立て籠もって休もう。
そして落ち着いてみんなが無事に帰れる方法を考えよう。
そんなふうに考えていた矢先、突然消えていたはずのテレビの電源が点き、ざーざーと砂嵐を映し始めた。
 ヒカリとナタネは思わず息だけの悲鳴を上げる。たんなる誤作動ではないであろうということは
今まで散々に電化製品に襲われた事で分かり切っていた。
だけど明確な攻撃方法のある扇風機や洗濯機と違い、たかがテレビに何ができるというのだろうか。
 二人は注意深くテレビを見張る。二、三度、映像がぶれて怪しく光り、テレビ画面自体が一瞬揺れ動いたように錯覚した。
否、それは錯覚などではなく確かに画面は石の投げ込まれた水面のごとく揺れ動いていた。
揺れはどんどんと強くなって波紋の盛り上がりが大きくなっていき、徐々に顔のような形を成していった。
『タチサレ……タチサレ……』
 無機質な砂嵐の音の裏で、微かだが確かにスピーカーからそう声が響いた。
揺れは激しさを増すことを止めず、今度は手のような形が画面に浮かぶ顔の横に形成されていく。
画面の顔と手がもがく度に、ビニールを裏側から押しているかのように画面は伸びていった。
画面の奥から今にも何かが這い出してこようとしている。


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