第36章


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「なんだ、一目惚れでもしやしたか? 真面目な面しておめえさんも隅に置けねえな」
「ち、違うポチャ。なあ、ドン。ヒカ――いや、あの人間達のポケモン、何とかうまく連れ出せないかな?
戦力を少しでも奪うのは僕達の危険も減るし、うまく説得できれば主人達に帰ってもらえるよう仕向けられるかもしれない」
 エンペルトの話にはどこか他意があるようにも感じたが、ドンカラスは提案に乗ることにした。
「そうだな。うまく隙ができたらやってみやしょ」
 間も無くして、ロトムは体の電気を少しスパークさせて合図を出す。
透明になったままムウマージと共に壁と天井を叩き、燭台や皿を投げ飛ばし、部屋中を暴れ回りだした。
人間達はそれにひどく怯えた様子で頭を抱えてしゃがみ込む。
「行きやすぜ!」
 絶好のチャンスとみてドンカラスとエンペルトは調理場から飛び出して駆け出す。
ポッタイシとワタッコに気付かれるも、主人に知らされる前に二匹の口を塞ぎ、そのまま食堂からさらいだした。

 ドンカラスとエンペルトは二階の一室へと二匹を連れ込んだ。
「無礼な! 私を何と心得る! 離せッ!」
 エンペルトに後ろから羽交い絞めにされながら、ポッタイシはがなりたてて暴れる。
ワタッコはドンカラスに抱えられたまま、怯えて震えていた。
「危害は加えねえよ、お嬢さん方。おとなしくあっしらの話を聞いてくれりゃあな。なあ、エンペルト」
「うん、だから安心してほしいポチャ」
 エンペルトの声を聞いた途端、ポッタイシは動きをピタリと止めた。
「! お前はまさか……!」
 ポッタイシを離し、エンペルトは決まりが悪そうに口を開く。
「……久しぶりポチャ」


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