第36章


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 館と自分の頭を散々にされた欝憤は、あの人間共をこっぴどく驚かすことで晴らしてやろうとドンカラスは思い立つ。
それにはまずは色々と仕掛けの準備をしなければと、ロトムと一緒になって作戦を練り始めた。
 悪巧みするドンカラス達の横で、エンペルトはどんな人間がやって来たのか興味を持ち、玄関の方を覗き見る。
先程の人間の声がどこかで聞いたことがあるような気がしたのだ。
 一人は薄着に短い緑色のマントを羽織った、短髪の見知らぬ少女だった。
そしてもう一人の白いニット帽を被った赤いコートの少女を見た時、エンペルトは思わず声を漏らす。
「ヒカリ……ちゃん?」
 エンペルトはその顔に確かに見覚えがあった。
 まだナナカマド博士の研究所にいた頃、たまに手伝いに来ていた子だ。それなら、連れているポケモンは恐らく――。
「何やってやがんでえ。見つかるだろうが」
 ドンカラスは入り口を覗き込んだまま固まっているエンペルトに気付き、慌てて奥に引っ張り込んだ。
「あ……ああ、ごめん」
「緊急時なんだからしっかりしてくだせえよ」
 いつもと何か違った様子のエンペルトを怪訝に思いながらも、ドンカラスはロトムとの話し合いに戻る。
何を仕掛けるにもとりあえずは食堂から抜け出さなければならなかった。
気配を感付かれたのか、人間達はポッタイシとワタッコを繰り出してこちらへ向かってきている。
食堂の出入口は一つしかなく、部屋の小さな窓はドンカラスとエンペルトが通るには狭すぎた。
「オイラとマージさんで奴らの隙を作るから、その間にあんたらはここから抜け出しな」
「わかった。バレねえようにうまくやりやがりなせえよ」
 ロトムにその場を任せ、ドンカラスはエンペルトと食堂の調理場に身を潜めた。
ロトムとムウマージは空気に溶け込むように姿を消して人間達を待ち構える。

 すぐに人間達は食堂に姿を現し、回りを窺い始めた。ドンカラスにも若干の緊張が走る。
ふと横を見ると、エンペルトがどこか複雑な表情をして人間達の方、特に赤いコートの少女が連れたポッタイシを見つめていることに気が付く。

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