第36章


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 洋館の目前まで辿り着いた時、さしものヒカリもその恐ろしげな外観に思わず息をのんだ。
朽ちかけた外壁はまるで魚の鱗のように爛れ、ぼんやりと光を反射する曇った窓ガラスが濁った大きな目みたいに見えた。
不用意に近づけば、あのささくれだったドアが大口を開けて、
自分達をぺろりと飲み込んでしまうんじゃあないか――そんな嫌な想像をしてしまう。
 だがヒカリは背にのしかかる頼りない重さを思い出す。
数分程前に洋館の方から響いてきた大きな鳴き声に驚いてナタネはますます竦み上がり、
もはやヒカリの背に半ば負ぶさるような形となっていた。
ここで自分まで恐がってしまったらだめだ。ヒカリは嫌な想像を振り払い、心を奮い立たせた。

「ナタネさん、着きましたよ。くっついたままだと、もしもの時にポケモンを出しにくいからもう少し離れましょ」
「う……つ、着いちゃった? じゃなかった、やっと着いたのね! 周りには何もいないよね? 例えば……お化けとか」
「大丈夫ですよ」
「そ! あ、いや、ただちょっと聞いてみただけだからね。お化けが怖いとかじゃないわ」
「はいはい、わかってます」
 ナタネはヒカリの背から顔を上げ、数歩離れる。
「さー! さっそく洋館の調査を開……開始……」
 胸を張って元気よく宣言するつもりだったナタネだが、
間近で見る洋館の姿が目に入った途端に笑顔が引きつり、言葉は尻すぼみになってしまう。
「……じゃあ、わたしが先頭で行きますね」
 ヒカリは気付かない振りをするのが優しさだと思い、そっと先んじてドアノブに手をかけた。
慎重に力を込めて押すと、ドアは軋みながらゆっくりと開いていく。
 玄関をくぐるとそこは二階への吹き抜けがある広いエントランスホールとなっていた。
薄暗い内部は確かに所々が痛んで汚れているが、何年も誰も住んでいない廃墟の割りには、
思っていたほどひどい状態では無いとヒカリは感じた。
「ご、ごめんくださーい! 誰か居ますかー?」
 もしかしたらまだ誰かがこっそり住んでいるのかもしれない。そう考え、ヒカリは念のため呼び掛けてみることにした。
しかし、洋館は不気味に静まり返るばかりで返事はない。
 諦めかけたその時、微かな物音が正面奥の部屋から聞こえた。


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