第36章


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 ドンカラス達は示し合わせたかのように息を潜め、ドンカラスが玄関の方をこっそりと覗き込んだ。
そこには確かに人間の少女二人の姿があった。二人とも腰のホルダーに幾つかのモンスターボールが取り付けられており、
少女達がポケモントレーナーであるということが容易に知れる。

 ドンカラスは戦慄した。それは怒り狂うケンタロスの群れよりも、
下手をすれば更に質が悪いかもしれない外敵の訪れだった。

 ドンカラスが住み着いてから今まで、洋館に人間の侵入を許した事はほとんど無かった。
捨てられた薄汚い不気味な洋館に用がある者などいないし、極稀に物好きな人間がやってこようとしても、
大抵は洋館までたどり着く前にヤミカラス達が威嚇して追い払ってしまう。
ゲンガー達がまだ住んでいた頃に一度入り込まれたが、ゴースト達の手厚いもてなしに怯えてすぐに逃げ帰っていった。
あまり平和的ではないが、一応は双方に血の流れない方法で洋館の平穏は守られてきた。
もしも一線を越えて人間に大怪我をさせたりしてしまえば洋館は危険視され、
瞬く間に他の人間達が押し寄せてきて潰されてしまうであろうことをポケモン達は知っている。

 今、洋館にはヤミカラス達もゲンガー達もいない上、相手はポケモントレーナーだ。
幾ら少女とはいえ決して侮れない存在が、それも二人。自分とエンペルトだけでどう追い払えばいいのか――。
「なー、手伝ってやってもいいぞ」
 ドンカラスの心を見透かしたように、ロトムは潜めた声で言う。
「オイラだってゴースト、驚かせるプロだ。現にカラス共も逃げてっただろー」
 疑った目を向けるドンカラスにロトムはそう言葉を続けた。
「……本当だな?」
「信じろよー。四の五の言っていられる場合じゃないだろ」
 完全に信用することはできなかったが、今のドンカラスはわらにも縋り、猫の手でも借りたい思いだった。
扇風機に貼られた札をドンカラスが剥がすと、モーターから球根のような形をした橙色の小さなゴーストが飛び出す。
「ふー、助かった。さー、あの人間共をどうやって恐がらせてやろっかなー、ぷぷ」


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