第36章


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「こんなので本当にうまくいくんですかい?」
 食堂の机にシーヤの実を盛り付けるエンペルトに、ドンカラスは疑った目を向けた。
「たぶんね。それよりそれ、ちゃんと持っててくれよ」
 エンペルトに指示され、不服げにドンカラスは足元の投網を拾い上げる。
「よし、後は少しの間、物陰に隠れていよう。先客がいないことを一応しっかり確認してからね」

 二羽は食堂のキッチンに身を隠し、注意深く机と入り口の方を見張った。
数分後、大きな影がのっそりと入り口をくぐり、食堂に姿を現す。
それはヤミカラスが言っていた通りの姿をした、皮マスクとぼろぼろの小汚い衣服を纏った怪人だった。
化け物を信じていなかったドンカラスも、思わず息を呑んでその姿を見つめる。
 体重を感じさせないまるで滑るような動きで怪人はシーヤの実が置かれた机へと近寄っていく。
実の一つへと怪人がそっと手を伸ばした瞬間、「今だ!」とエンペルトはドンカラスに声をかける。
二羽により素早く網が投げ掛けられ、逃げる暇もなく怪人は網に捕われた。

「こいつめ! 散々、あっしの館を荒らしてくれやがって!」
「ドン、ちょっと待って!」
 エンペルトが止めるのを押し退け、ドンカラスは藻掻く怪人に飛び掛かり押さえ込みにかかる。が、
飛び乗った途端に怪人は綿の抜かれたぬいぐるみのように潰れてしまった。
ドンカラスが呆気にとられている内に、網の間から濃い紫色をした布のようなものが擦り抜け、
こっそりと逃げていこうとするのをエンペルトは見逃さなかった。
「やれやれ。マージ、お腹すいてるんだろ? イタズラは休んで、食べていきなよ」
 ぴくり、と紫色の布はエンペルトの言葉に反応を見せ、動きを止める。
「ちぇ、ばれちゃってたかー」
 諦めたように呟いて布は宙でぐるりとまとまり、一瞬の内にムウマージへと姿を変えた。
「へ……犯人はマージさん?」
 素っ頓狂な調子でドンカラスは声を漏らした。



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