第36章


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 薄暗い森に聳える洋館へと向かう二人の少女の頭上を、不意に黒い影が羽音を立てて過ぎ去った。
「きゃあ!」
 少女の一人が大げさな悲鳴を上げ、その場に頭を抱えて蹲る。その姿をもう一人は呆れたように見つめた。

「大丈夫、ただのヤミカラスですよ。ナタネさん」
 ナタネと呼ばれた少女は恐る恐る顔を上げ辺りを確認すると、取り繕うように威勢よく立ち上がった。
「わかってる、わかってる。今のは、ただちょっと転びそうになっただけだから平気よ!
さーさー、あたしはヒカリちゃんの背中を守ってるから安心して進んでー」
 そう言うとナタネは、もう一人の少女――ヒカリの背中へ回り込んで洋館の方に体を向けさせた。
 心の中でため息をつき、ヒカリは再び歩き始める。そして、その背にナタネは背後霊のようにしがみ付いて付いて行く。
ずっとこのような調子で、二人は進んでいた。

 発端は、ハクタイの森に生息するポケモンの調査に訪れたヒカリが、
何やら困った様子で森の奥を眺めているナタネの姿を偶然見つけたことだった。
ヒカリが事情を尋ねてみると、彼女はハクタイシティの住人の要請で、森に建つ捨てられた洋館の探索に訪れたのだと語った。


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