第36章


[19] 



「腰抜けのヤミカラス共め、帰ってきたらタダじゃおかねえ」
 苛々とした様子でドンカラスは壁を蹴りつけ舌を打つ。
その横でエンペルトは何か心に引っ掛かるものを感じ、頭をめぐらせていた。
「なあ、ドン。さっき、ヤミカラスは皮のマスクを被った怪人がどうとか言っていたよな?」
「それがどうかしたってのか? そんなもん出任せの逃げ出す口実に決まってまさあ」
「そんな怪物を何か他でも見たような気がするんだ。夢の中でじゃあない。
他のヤミカラス達が見たという怪物の話も、よくよく思い出せばそうだ」
「おいおい、おめえさんまで何言ってやがんでえ。
洋館でまともに動けるのはもうあっしらだけなんだ。もっとしっかりしてくだせえよ、ったく」
「だけど――」
「まだ近くに廊下中をずぶ濡れにしやがったド阿呆がいるはずだ。早くこてんぱんにのしてやらねえと気がすみませんや」
 エンペルトの話をろくに聞く態度も見せず、ドンカラスはさっさと先に行ってしまう。
腑に落ちない思いをしながらも、エンペルトはその後に続いていった。

 次に二羽が調べに向かったのは、ビデオを見るのに使っていたテレビが置かれている部屋だ。
 大量のビデオとそのパッケージが散らかっている以外には特に何も無く、
灰色の砂嵐を映すテレビがむなしくザーザーと音を立てていた。


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