第35章


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「いいんじゃねーの? ビシッと決めて顔覚えてもらいなよ。見ててやっから」
 縋ったワラにも突き放され、ロゼリアは途方に暮れる。その間もニューラ達は早くやれと急き立てた。
「……わかりました」
 ひとしきり悩んだ後、ロゼリアは心を決める。ニューラ達は途端に静まり返り、その様子を見守った。
ロゼリアは小さな葉っぱを一枚取出すと口元へとそっと当て、息を吹き込んだ。優しい旋律が紡がれ、洞窟内を流れる。
 しかし、肝心のニューラ達の反応は悪く、最初は黙って聞いていたが徐々に退屈そうな顔になっていき、
遂には野次を飛ばし始める。天井のレアコイルまでブーイングらしき電子音を鳴らした。
退くにも退けず頑張ってロゼリアも続けたが、見兼ねたマニューラは礫まで飛んでこない内にとロゼリアを退かした。
「その程度じゃなまっちょろいんだよ。オレ達相手にやるならもっとはめ外しな。オメーら、久しぶりにアレやんぞ!」
 待ってましたとばかりにニューラ達は歓声を上げる。数匹のニューラが無数に開いた巣穴の一つに入り、
中からガラクタを持ち出してくる。所々が錆付いた壊れかけのギター二本と、ヤカンや鍋を組み合わせたようなドラムらしき物体だ。
その内、ギターの一本を投げ渡されマニューラはそれを受け取った。
「レアコイル、カモン!」「ビビビ!」
 鎖を外して勢い良くレアコイルが降りてくると、マニューラはギターから伸びる線をレアコイルに差し込む。
爪で弦を引っ掻き始めるとと金切り声のごとき凶悪な音が響き、レアコイルがそれを更に増幅させてロゼリアの耳をつんざいた。
続いて一匹のニューラが棒切れでヤカンと鍋のドラムを乱暴に叩き始め、
更にもう一匹は地味ながら狂暴な低音を掻き鳴らしてロゼリアの耳を着実に攻めていく。
正に不協和音の集大成。たまらず地面に突っ伏し耳を塞ぐロゼリアをよそに、ニューラ達は熱狂し騒ぎだす。
「万雷の拍手をおくれ世の中のボケどもーってか! ヒャッハァーッ!」
 こんな所で果たして自分はうまくやっていけるのだろうか――ロゼリアの心は初日から深い不安に苛まれた。



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