第34章


[07] 



 生暖かい漆黒が全身を包み、皮膚の上で粘つきながら脈打つ。
それはまるで大きな蛇か何かにゆっくりと飲み込まれていっているかのようだった。
 奇妙な懐かしさと安らぎに支配され、滲んで消えかけようとしていた意識に、急に強烈なイメージが流れ込んでくる。
迫る刃、鋭い牙の並んだ大きく開かれた口、身を包む業火。幾つもの、様々な死の直前のような映像が脳内にフラッシュバックする。

 ――死にたくない、俺はまだ死ねない!
 声にならない絶叫を上げると共に闇から体が解放され、枯れ枝の山に背から落ちたのを感じた。
 先程のイメージに吐き気を覚えながら、ゆっくりと目を開けると、骨と化したポケモンの頭が鼻先にまで迫って俺の顔を覗き込んでいた。
心臓が跳ね上がり、再び大声を上げそうになる俺を見て、頭蓋骨はカタカタと笑うように顎を鳴らす。

「びっくりした?」
 聞き覚えのある、気の抜けた声。頭蓋骨を脱ぎ捨て、ムウマージが顔を現した。
 怒る気力も無く、俺は安堵と呆れの深いため息を吐いた。
「生きたまま成仏しかけた気分はどうだい?」
 笑い混じりのゲンガーの声が聞こえる。
「荒療治だが、深い生への執着が無いと、ここではやっていけねえ。そいつがいて良かったな」
 にこり、とムウマージは無言で微笑む。

「そんなことより、さっさとそこから降りてきな。急いでんだからよ。そんなにその悪趣味なベッドが気にいったってんなら、
後で幾らでもロストタワーから掘り起こしてきてやるっての」
 何を言っているのかと、上体を起こして下を見る。そして、その意味を理解した。俺が落ちたのは、枯れ枝の山などでは無い。
 半ば転げ落ちるようにして、俺は骨の山を駆け降りた。

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