第33章


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澄んだ二つの歌声が重なり合い、歌い手である二匹のムウマージを包み込む。
その陰鬱で物悲しい旋律が一つ音を外すたび、一節が終わるたび、ムウマージから紫色をし
た靄のようなものが吹き出し、少しずつ体が薄れていく。

傍から見れば遊んでいるようにしか見えないが、それは壮絶な戦いだった。
二匹が歌う歌には聞いた物の心に直接打撃を与え、戦意どころか生きる気力さえも奪い去っ
てしまう呪いが籠められている。実体のある真っ当な生物でさえ聞き続ければ生命活動が弱
まり瀕死の状態にまで陥る可能性がある強力な物だ。
はっきりとした実体を持たない、精神的な物だけで存在を辛うじて維持している者達――い
わゆる幽体、ゴーストポケモン――にとっては格別の効果があった。

一音々々に乗った呪詛が研ぎ澄まされたナイフのように二匹の精神を抉り、存在を削り合う。
戦況は明らかに本物のムウマージが不利であった。コピーの方にはほぼ変化が無いが、
本物の体は殆ど半透明になり、歌声も段々と弱弱しく掠れがちになってきている。

実力の差もあった。だが、本物のムウマージがコピーに押されている一番の原因は他にある。
コピーが他の者達への被害をお構い無しに高らかに歌い上げる中、本物のムウマージは自分の
呪いが広がりすぎぬよう配慮し、コピーが発する攻撃を一身に集め、仲間を守りながら戦っていた。

「なに、あいつ等。のんきに歌なんて歌っちゃてさ。うざったいったらありゃしない」
コピーのミミロップは二匹の様子を見やると、ふん、と鼻で嘲った。



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