第32章


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「がぁーッ、何が愛だ! おめえみてえな色惚けトカゲが言うと数百倍、いや、数千倍気色わりぃんだよ!」
 カメックスはレッドの制止も聞かず再びリザードンへ照準を合わせ、砲塔から勢い良く水を噴射する。
リザードンは体を傾け、軽々と二本の水流の合間を縫うようにかわしていく。
 急に体を傾けられ、俺はバランスを崩してリザードンの背を転げ体が宙に放られた。
「しま――ッ!」
 がしりと腕を褐色の手に掴まれ、引き寄せられる。間一髪のところで俺はミミロップに抱えられ、難を逃れた。
「大丈夫?」
「ああ、すまんな」
 放水が止むと、馬鹿にするようにリザードンはカメックスの上空で旋回を始める。
「ははは! 鈍亀め。不意を突かれなきゃそんなトロくさい水鉄砲が二度も当たるか。それに前から何度も言っているが、
俺は今はもうトカゲじゃなくて竜だ。至高にして孤高なる、高みの存在。トカゲや愚鈍な亀のような爬虫類とは違うんだよ爬虫類とは」
「あー! うるせえ、うるせえ! トカゲはトカゲだろうが。わけわっかんねえこと言いやがって。
オーキドのジジイんとこに居た時から、おめえだけは気に食わねえ。これからもずっとそうだと言い切れるぜえ!」
「奇遇だな、俺だってそうさ。それが何の間違いか肩を並べて共に戦うことになるなんて……嫌で嫌で嫌で嫌でしょうがない」
 二匹の言い争いは止むことなく延々と続き、激しさを増していく。
甲羅の上でレッドは片手で自分の後ろ頭をがさがさと掻き撫で、深く息を吐いた。
「二匹とも、いい加減にしないか!」
 主人の一喝に二匹はびくりと反応する。そして互いに口惜しそうに睨み合った後、顔を背けた。
「まったく……どうしていまだに仲良くできないのかな、お前達は。これじゃあグリーンに顔向けできないよ」



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