第32章


[10] 



 岩影から人間の手が伸び、エーフィの頭を優しく撫でる。
エーフィは、すました風を装っているが、嬉しそうに小さく喉を鳴らした。
「うん、よくやった。ありがとう。戻れ、エーフィ」
 そして人間は礼を言い、モンスターボールにエーフィを戻した。

 やはりポケモンを実験材料にするような輩には思えない。だが、それならば何故この洞窟にやってきたのか。
 ただ命を捨てに来たようにも、興味本位で洞窟探険に乗り出した無知な愚か者とも違うように感じる。
今まで拾えた数少ない情報だけでは、幾ら頭の中で組み合わせ並べようと答えが出ることはなかった。
 そうこうとしている内に、姿の確認もできぬまま人間がその場から離れていく足音が響く。
「どうします?」
「少し、奴の後をつけるぞ」
 ロゼリアにそう答え、俺は曲がり角の先に歩を進める。
 もう少し見極める必要があるな。
わけもわからぬまま放置し、ミュウツーと対峙している時に横から割り込まれては目も当てられない。
 相手は思った以上に強力な使い手だ。慎重すぎる程でちょうどいい。

 道の先に背後からではあるが、人間の全身を確認することができた。
 俺達は適当な物陰に身を隠し、様子を見る。
 人間は川の手前で止まり、腰のモンスターボールのホルダーに手をかけて何かを繰り出そうとしていた。
 赤い帽子に袖の短い同色のジャケット。少なくとも研究者には見えない。
 あの格好、どこかで見覚えがある。確か――三年という時の流れ、かなり成長してはいるが、あれは――。
 と、その時、俺達の頭上を越え人間に向かって滑空していく影が一つ。
大きな翼と、全身の半分以上をしめているような大きすぎる口が特徴の異形のコウモリ――ゴルバット。シンオウの者とは別個体だ。
 その接近に赤い服の人間はまだ気付いていない。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.