第30章


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「相変わらず頑丈な布です。そしてあなたの悪運の強さも折り紙付きですね。――これを」
「む?」
 ロゼリアが見せたのは無残に穴が開き、中身が漏れだしている回復の薬の容器だ。どんな荒れた地にも
我らを求め入り込む忌まわしきポケモントレーナー用の道具であり、少々のことでは決して割れないよう
に考えられ作られている。
「裏地の両側面に背部……無駄に収納スペースが多くて便利なマントですね。最早、歩く道具袋ですよ。
うわ、よく見たら端っこの方にドンカラスさんの名前が刺繍されてる――おっと、失礼しました。
 それに偶然当たらなければ、いくらマントの上からだったとはいえ生きてはいなかったでしょうね。
背中、ひどい痣になってました。それだけです。その薬臭いびしょ濡れのマントを羽織っておけばすぐに
それも消えるでしょう」
 ……あれだけ重く感じていた体が軽がると持ち上がった。
「う、うむ」

                       ・

「それにしてもあのラッタ、明らかに異常でした」
「ああ」
 凶暴性、あの尋常じゃない力、そして何よりあの変貌……普通のラッタにはあり得ない。まるで――。
 脳裏に実におぞましい、ある考えが浮かんだが、必死に振り払った。
 ピジョン達は無事だろうか。だが、確認するすべは無い。退路は鋼鉄の壁に断たれ、左のシャッターの
先は瓦礫に埋もれていた。
 進むべきは一つしか残されていない。鬼と蛇が足並みをそろえて出てくることが分かり切っていたとしても。


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