第30章


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「逃げ……た?」
 何が起こったのかわからないが、どうやら退けることはできたようだ。だが、これは偶然により起こっ
た、辛勝と言わざるをえないだろう。奴が逃げる前に起こした異変。あれが無ければ今頃どうなっていた
かわからない。
 張り詰めていた緊張の糸が緩み膝の力が抜ける。無理矢理に押さえ込んでいた痛みと疲労が一気に背に
のしかかり、俺を地に押さえ付けた。マントの背部が何か液体に濡れ、毛並みに張り付いている感じがあ
ることに気付く。冷たく、寒い。何故か痛みを感じなくなってきた――。
周りから二つ、俺の名を呼ぶ声と駆け寄ってくる足音が響く。
「ピカチュウ……」
 褐色の腕にゆっくり抱き上げられ、片膝を付きつつも上体を起こした。
「……ああ……無事か、お前達?」
「大丈夫、僕達は少し引っ掻かれた程度です。それよりあまり動かないで。ちょっと背中を見せてください」
 そう言い、ロゼリアは俺のマントを外す。
「これは……なんという――」
 ロゼリアが息をのむ音が聞こえた。そんなにひどいというのか――。



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