第29章


[09] 



 ――敵か?
 突然見えない手か何かに絞め上げられたように俺の体は動けなくなり、再び頭に声が響く。
 向けられた殺気はひどく無機質に感じられた。どこか空っぽで、悪意も憎悪も何も無いのだ。
単純で純粋な殺意。その異質さは不気味であった。

 敵意は無い、と声は出せないが思考で伝えると、見えない力はあっさりと振りほどかれ、
スイッチが切り替わったかのように向けられていた殺気も消え去る。そして何も言わず俺に背を向けた。
 ただの危ない輩だ、これ以上関わり合いにはならないのが最良の判断であろう。
 だが、だというのに、好奇心だとでも言うのだろうか、それが俺の中で勝ってしまう。

「我が名はピカチュウ。お前はここで何をしている? この辺りに住むポケモンでもあるまい」
 そう問うと、先程とは態度を一変させ、興味深そうにこちらに振り向いた。
「私はポケモン……というのか? お前は私が何者なのか知っているのか?」
 そして縋るように俺の体を強く掴み、問いを返してくる。
 予想だにしなかった突飛な反応に、少し戸惑いながら答えた。
「人間や普通の動物でなければそれしかあるまい。お前が何者なのかまでは判らんが」
 そうか――そう一言だけ呟き、落胆したように俺から手を放した。

 また厄介な拾い物をしてしまったと後悔する。
 しかし、ここまで首を突っ込んでしまった以上、後には引けなかった。


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