第29章


[08] 



 奇妙な者に出会った。
 眼光は鋭く、相当な力を持っていることが本能で伝わった。
 だが、その一方で、どこか頼りなげなものを内包している。何と言えばいいのだろうか。
 そう、例えるならば帆の無い帆船のような――風を捉えられずただ波間を漂うことしかできない、
不完全で不安定なものが感じられたのが印象に残っている。

 その者に出会ったのは夕暮れの海岸だった。
 俺はミミロップ達との賭け――人間もよくやる、硬貨を投げ裏か表かを当てるものだ――に負け、
腹立たしくも食料の調達役を押し付けられ、島中を苛立ちながら駆けずり回っていた。
 十分な量を集め、そろそろ洞窟に戻ろうとしていた時だ。波打ち際に佇む背の高い影を見つけたのだ。
それが人間のものでは無い事は、尖った耳と長い尾のようなものを見てすぐにわかった。
 関係ない、といつものように放っておけば良いのだが、俺は何となくその様子が気になり
海岸に降り立って波打ち際に向かったのだ。

 その者は立ち尽くすように海の方を見ていた。近寄って見ると背丈は俺の五倍、
二メートルはあっただろうか。体格は全体的にほっそりとしてはいるが、無駄な肉の無い強靱な
肉体であることが判る。体毛は確認できず、つるりとした白い皮膚が日に赤く照らされていた。

 その背から三メートルくらいまでに近付き、声をかけてみようと口を開き掛けた時、
抱えていた木の実の一つが急に半分に裂け、砂浜に落ちた。

 ――何者だ。
 浮くように隙無く振り返り、俺の頭に直接声を響かせてその者はそう語り掛けてきたのだ。
 テレパシー、念力、所謂エスパータイプのポケモンだったのだろう。それもかなり高度で強力な




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