第29章


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 その者には記憶が無かった。
 深く頭の中に刻みこまれているのは敵は抹殺しなければならないという観念と、その方法。
他に憶えているのはあまりに断片的で繋がらないような情報ばかり。
 その中で、一つだけ強く何かを感じ惹き付けられる情報があったのだという。
 それはグレン島のポケモン屋敷という場所の事。自分が何者かが知りたいがため、
それだけを頼りにこの島へ来たと言うのだ。

 屋敷について何か知らないかと聞かれ、ピジョンならば知っているかもしれないと、
俺はその者を洞窟に連れ帰ることにした。

 洞窟に戻り、俺は全員に事情を説明する。
 ピジョンからそれらしき屋敷の事を聞き出し終え、去ろうとしていた背をミミロップ達が呼び止める。
 その……記憶が無いなんてあんたも大変ね。こんな事くらいしかできなくて申し訳ないのですが……。
これあげるー。諦めずに頑張ってね。
そうミミロップ達に手渡された食料を、その者は困惑の表情を浮かべながらも受け取った。
「お前の名前を聞いていなかったな。聞かせてもらえないだろうか?」
「ミュウツー。それが私の名前のようだ。……感謝する。お前たちの事は忘れない」



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