第29章


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 体が芯まで暖まり、良い具合にほぐれたのを感じる。
 確かに温泉というのは良いものだな。いつか旅を終えた時、多少他より条件が悪くとも
温泉が湧く土地を優先し永住の地として選んでしまってもいいくらいだ。
 賑やかすぎる入浴を終え、崖の際辺りに腰掛けて火照る体を涼ませながらそのように思っていた。

 ――いつか旅を終えた時、か。遠い先の話だ。
 全世界。果てしなき道だ。先を案ずるだけで目が霞む程の。
 生涯のすべてをかけて挑むことになるのかも知れん。旅路の途中に骨を埋める事になる可能性すらあるだろう。
……上等である。望むところだ。

 ふぁさり、と不意に背中の方から布の感触が体を覆う。
「ずっと風に当たってると、湯冷めして体に悪いわよ」
 振り向くと、手間かけさせないでよね、とミミロップが笑んだ。
「ああ、すまんな」
 ふと思う。こいつらにはどの程度の覚悟があるのだろうか。
ただ自覚なく成り行きで今まで俺に流されてきただけではないのか、と。
 その時は――。
「――お前に問おう。我が覇道、立ち止まることなく命尽くまで歩み続ける覚悟はあるか」
「え! もしかして、それプロポーズ?」
 がくりと落ちそうになる肩と、沸き起こる頭痛を俺は堪える。
「……お前の耳は一体どういう構造をしているのだ。真面目な話をしている。
 もう旅の同行の無理強いはしない。お前達が求めるならばいつでも自由を――」
 ミミロップはつまらなそうに息をつき、呆れたと言いたげな様子で手をひらひらさせた。
「何を今更……。そんなこと言ったらロゼリアちゃん達も怒るわよ。――答え、聞かなきゃわかんない?」
 ……愚問だったか。湯の熱で俺はどうかしていたようだ。

「ふん、平穏に生きる道へと戻れる最後の機会を与えてやったと言うのに。愚かな奴だ」
「だから責任とって、早く私をお嫁にしなさい」
「知らん、お前の自己責任だ」
「ちぇっ」



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