第29章


[18] 



 早撃ちによる決闘のような緊張した空気がロゼリアとの間に流れる中、最初に行動を起こしたのは俺だった。
 電光石火の速さでロゼリアの目の前に回り込み、その眼前で両手のひらを合わせ打ち電気をスパークさせる。
 うまく怯んだのを確認し俺は素早く方向転換し、湯に駆け出した。
「ひ、卑怯ですよッ!」
「ふん、何とでも言うがいい。最終的に勝てばよかろ――」
 言葉の途中で右足に何かが絡まり、姿勢を崩して俺は盛大に体を地に打ち付けた。
 右足を見ると草が鎖のようにいつの間にか結ばれていた。草一本生えていないこの場所で
このような偶然は起こりえない。犯人は分かり切っている。
「卑怯な!」
「その言葉、そのままお返ししますッ!」
 草を解き起き上がった時点で、スタートでの差は無くなっている。
ぶつかるように競り合い、湯に飛び込もうと足を踏み切ったのはほぼ同時――。

 湯に全身が沈み込んでしまい、俺は手足を必死にかいて浮上し、息を整えながら岩の湯槽の縁に掴まった。
 横で同じようにしてロゼリアが上がってくる。

「俺の勝ちだ。所詮貴様などその程度にすぎん」
「いえ、僕の勝ちです。支配者の座は僕に譲った方がいいんじゃないですか?」
 俺達が言い争う中、後ろから何かが水中から飛び出すような音がした。争いを中断し、二匹で振り向く。
「せんすい、にじゅうびょうー」
「すごいなあ、ボクは十秒もお湯の中に顔をつけてられないや」
 俺はロゼリアと顔を見合わせる。既に二番手どころか三、四番手だった。
何が起こったのかはよくわかる。くだらない小競り合いをしている内に入られていた。それだけだ。

 もう二度とくだらないことで熱くはなるまい……。
そう心の中で誓い、疲れ果てた俺とロゼリアはぶくぶくと湯に沈んでいった。



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