第29章


[16] 



 実験室の窓から無事脱し、俺は口笛でピジョンへと合図を出す。
 直ぐ様、羽音を立ててピジョンは屋上から舞い降りてきた。
「無事だったか! 少し出てくるのが遅いもんで心配していたが。それで、どうなった?」
「ああ――」

          ・

「ふうむ、なるほどな」
 俺達は研究所の屋上へと上がり、ピジョンに状況を伝えた。
 どうにも落ち着かん。物事をいつまでも待たされるのは性分ではない。
だが、今は待つより他はない。俺達に手が出せる事はこれ以上無いのだ。
 消化不良の感と苛立ちを覚えていると、ピジョンが何か思いついたように両手もとい両羽を打った。
「そうだ、どうせ今日はもう何もできることが無いのならば温泉で長旅の疲れをとるなんてどうだろうか。
あれは中々にいいものだぞ」
 名案が浮かんだのかと期待してしまいそうになった矢先に飛び出たのは、予想の的を大きく外した
実に下らない提案であった。
 普段ならば即刻すっぱりと切り捨てる案であるがするべきことが無いのも事実。
「……温泉だと?」
「ああ。火山あるところに温泉あり、だ。ピジョットさん達が生きていた頃に行ったことがある。
人間が登れないようなところに丁度沸いていてな。ポケモンだけの秘湯というやつだ」
 そこでグレン島に生息するポケモンにも会えるかもしれん。火山があるこの島には炎の力を持つ
ポケモンが必ずいるはず。
 我が配下には炎の力を行使できる者が少ない。うまく取り込めば戦力の大幅な増強に繋がることだろう。
「いいだろう。案内するがいい」
「よし、では早速洞窟に待つ奴らも呼びに行こう」
 それに昨日芯まで冷やされた体を芯まで暖めるのもいいかもしれない。
 自らの体調を常に万全に整えるのもまた覇道を歩む者には重要なことだ。
 ――そのようにでも思わないとやっていられなかった。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.