第29章


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 扉を開け入ってきたのは侵入の際に眠らせたあの男だった。男はびくびくと隅々を見回して室内を探っている。
 荒らされた形跡も侵入者の影も確認できなかったのか、しばらくして男はほっと胸を撫で下ろすように
ため息を吐いた。
 実際に侵入者は上に二匹居るのだが、まさかこんな狭い通風口内に忍び込める者が来るとは、
見た目からしてうだつが上がらなそうなあの男でなくとも思うまい。
 俺が予め下に落としておいた鍵の束に気付き、男はそれを拾い上げた。何故ここに落ちてるのかと首を傾げながらも
それ以上詮索しようとはせず、昨日飲み過ぎたかなー、などと呟きながら男は部屋を出ていった。
他の場所の解錠に向かったのだろう。あの間抜けぶりならば、鍵の束から二本程減っている事にもきっと
すぐには気付きはしない。気付いても自分がどこかで落としたと勝手に思い込む事だろう。
 平和ぼけというのは実に恐ろしいものだ。これでは十歳位のポケモントレーナーを志す人間の子供に
家に不法侵入された挙げ句、机に何気なく置いていた物を勝手に持っていかれたとしても文句は言えない。

 少し待てば他の研究員もその内にやってきて実験が開始される筈だ。焦る必要はない、
こちらは裏口と窓の鍵を確保している。いつでもどちらからも臨機応変に逃げ出せるのだ。
 それに切り札もある。

       ・

 程なくして研究員達が集まり、実験は開始された。
 格子の隙間から俺達は事の運びをじっと見守った。のだが――。





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