第29章
[12]
「では、俺は屋上で見張りをしている。何かあればすぐに鳴いて知らせよう。うまくやれよ。」
「うむ」
器用に鍵をくわえて裏口ドアに錠を掛けると、ピジョンは一足先に傍の窓の内鍵を外し開け外に出た。
手筈通り俺は窓を閉め直し、再び内鍵を掛ける。これでもうしばらくは誰も入って来れんはず。
しかし、それもあの男が目覚めるまでの間だけだ。いつ目覚めるかわからん、手早くやらねば。
裏口から先はすぐ右へ直角に折れて続いていた。
角を抜けた先、真直ぐに伸びる廊下には、小さな窓と扉が廊下を挟んで対面するように
一定の間隔で五組並んでいる。廊下の先は広まっており、外からも見えた受け付けのようなものが見えた。
ここからは確認できないが、すぐ脇にはガラス戸の正面玄関があることだろう。
扉は全部で五つ、すべての部屋を見て回るのは時間的に少々厳しい。鍵が有っても、俺とロゼリアの背丈では
開けるに相当難儀するだろうということは容易に想像できた。
だが、何の手掛かりも無い以上、片端から手当たり次第に開けていくしか術は無い。
まずは定石であろう一番手前の扉からだ。
「待ってください、そこは物置のようです」
一番手前のドアの前で俺が立ち止まろうとした時、ロゼリアから声がかかる。
何故分かるのか疑問に感じながら振り向くと、ロゼリアはドアの上方を指し示した。
「あのプレートにそう書いてありますよ」
俺には読めんが、確かにドアの上に貼りつけてある小さな板には人間の文字で何やら書いてあるようだ。
「でかした。人間の文字が理解できたとは、思わぬ助けだ」
「え? それもあって僕を連れてきたんじゃあ無いんですか……?」
まさか忘れていたとは言えまい。
「……計算の内だ」
「怪しいなあ」
疑いの眼差しを、さっさと行くぞと強引に突っぱね、俺は次の扉へと向かった。
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