第29章


[11] 



 まだ日も昇らぬ内に、俺とロゼリア、そしてピジョンは洞窟を発った。
 当然のごとく町中はひっそりと静まり返り、人一人通ってはいない。何ら苦労すること無く、
俺達は町の南西に位置するポケモン研究所の前にたどり着くことができた。

 正面の自動の機械仕掛けであろうガラスの扉はしっかりと閉じられている。ガラス越しに見える内部は薄暗く、
出口へ走るような格好をしている簡略化された人間の絵が描かれた四角い電灯だけが、淡く光っていた。
 周りを探っても、窓から裏口まで至る所がしっかりと施錠され、やはり潜り込めそうな隙間は無い。
 幸いなことに、まだ中に人間のいる気配は無かった。残業している研究員がいたら少々厄介な事に
なっていたが、そんな奇特な輩は一人もいないようだ。随分とまあ、やる気のある研究所で助かった。
 さて、計画通りにいくといいが。

       ・

 ピジョンに手を貸してもらい、俺達は屋上に潜んで人間を待ち構えた。
 日が昇り辺りが少しづつ明るくなり始めた頃、研究所へ近づく人影を見つける。
 白衣を着ているわけではないが、一目見て明らかに研究員といった風貌の痩せた男だ。
 俺が目で合図を出すと、ロゼリアは小さく頷いた。
 男は研究所の裏口に回り込むと、ポケットをごそごそと探り鍵の束を取り出す。
そしてその一つを鍵穴に差し込んで回し、ドアを開けた瞬間、その頭上に花粉が降り注いだ。
 男はそれを吸い込み、くしゃみの勢いで前のめりになったかと思うと、そのまま昏倒してしまった。
 屋上から俺達は素早く降り立ち、倒れた男を研究所の中に三匹がかりで引きずり込んだ。
 ドアを閉め、起こさぬよう男をそっと適当な壁に寄り掛からせ、ポケットから鍵の束を盗みとる。
 さあ、潜入開始だ――

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.