第28章


[11] 



 嵐は段々と収まり、氷雪の合間にその姿が徐々に見えてくる。
 体を包んでいるのは青白い羽。おぞましささえ感じさせるほど、それは綺麗に輝いていた。
「間違いない、奴だ。あの時の――!」
 ピジョンは体をぶるぶると震わせる。その表情は憎しみに満ちているが、沸き立ってくる恐怖を必死に押さえ込んでいるようにも見えた。

 青白い鳥は高度をゆっくりと下げ、こちらに降りてこようとしている。羽ばたくたびに、胸部を覆っている汚れ一つ無い新雪のように純白の羽毛が冷風にざわめき、長い尾羽は光を乱反射させて棚引く。
 圧倒される荘厳で冷徹な美しさ。対面して感じる押し潰されそうな圧迫感は神々のそれとよく似ていた。
 先程から第六感が警鐘を鳴らし続けている。関わるのは確実に避け、戦うなどもってのほかの相手だと告げていた。
 そんな事、云われなくともわかっている。だが、しかし、こちらは復讐を遂げようとする者の付き添いとして連れてこられたのだ。逃げたくとも逃げられよう筈もない。
 そして逃がすつもりもあちらには無さそうだ。菱形の水晶を三つ連ねたような鶏冠の下で、狂気を宿した緋色の瞳をぎらぎらとさせている。
 青白い鳥は地から一メートル程の所で羽ばたきながら、俺に顔を向けて小さな嘴を開く。
 嘴の前で白い光が収束するのが見え、咄嗟に身をその場から横にずらした瞬間、光の帯が尾先をかすった。冷たさなど超えた鋭い痛み。尾が燃えるように熱く感じる。
 体を捩り見てみると、先をかすっただけだというのに、俺の尾は全体の三分の一ぐらいまでを凍り付かされていた。直撃していれば体の芯まで氷塊と化していたことだろう。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.