第28章


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 凍り付いた大気中の水分が、粉塵のようにもうもうと噴き出している一帯を見つける。
 顔中の毛にまとわりつく氷の粒を払い落としながら近寄ると、白い冷気の煙を噴き出しているのは地に開いた大きな穴だとわかった。
 穴の傍らに、薄く透き通った氷細工のような羽が一枚落ちている。恐らく例の鳥から抜け落ちた物だろう。
 この奥に奴はいるのだろうか。穴を覗き込んでみても、立ちこめる氷の粉塵に阻まれ、どれだけ深いのかはわからない。
 飛べるといえど、ピジョンとムウマージだけで行かせるのも危険だ。穴のすぐ底に潜んでいるかもわからない。まずは石ころでも落としてみようと思いつく。
 足元の適当な氷の塊を拾い上げ、それを落とそうとした時、穴の奥から何かの鳴き声が聞こえた。
 落とす手を止め、穴に意識を集中させる。微かに聞こえる翼をはためかせるような音。徐々にそれは大きくなり、風とそれを巻き起こしている翼の躍動が、はっきり耳に伝わってくる。
「――来る。全員、穴から離れろ!」
 再び甲高く透き通った鳴き声が響いた瞬間、穴から風雪の嵐が巻き起こった。吹き飛ばされそうになるのを必死に地を踏張り、マントで冷気から身を守りながら耐える。
 吹雪が吹き出した時、同時に大きな影が飛び出すのがちらりと見えた。――奴はどこに行った?
 頭上で悠々と羽ばたく音が聞こえる。マントの隙間から見上げると、大きな鳥の影が長い尾羽を揺らしこちらを見下ろしていた。



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