第26章


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 草むらをかき分け木々の奥へと分け入って行くと、木の間隔が広まって草の背も低い場所へと出た。
 その広場の真ん中に、小さな三角耳の生えたボールのように丸い桃色のポケモンがこちら側に背を向け、ちょこんと立っている。
 奴が騒音の原因だろうか。
「おい、そこのお前。ここで何をしている」
 息を吸い込んでいるのか少しずつ膨らみだしたそのポケモンに俺は声をかける。
 いきなり声をかけられて驚いたのか、そのポケモンはびくりとしてためていた息を吐き出し縮まった。そしてこちらにくるりと振り替える。
 大きな丸い二つの目でこちらの姿をじろじろと見つめた後、小さな口を開いた。
「あー、驚いたぁ! 何ですかぁあなた達はぁ。わたしの邪魔をしないでほしいですぅ」
 頬をぷうっと膨らませ、大きな瞳でこちらにずいと詰め寄る。
「先程の騒音の原因はお前か?」
「騒音だなんてひどいですぅ。このプリンちゃんのプリティソングを何だと思ってるんですかぁ!」
 プリンと名乗ったポケモンは頬をさらに膨らませ俺を睨む。
「あれが……歌?」
 驚愕している俺とミミロップ達を見て、プリンはますます膨らんでいく。しかし突然ぷしゅると音を立てて縮み、目を潤ませて悲しそうにその場に座り込んだ。
「わたしだってわかってますぅ。自分が音痴だってぇ……。だからこっそり練習しようと思ったんですぅ、憧れのプクリンさんみたいになりたいからぁ」
 あの破壊的な音の衝撃波は既に音痴という範疇を超越している気がするが、それは口には出さないでおいた。
 さて、どうするか。この辺りの平和のためにもこのようなことは止めさせなければだが――。


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