第25章


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 軽く礼を言った後、アブソルの背を降りた。後ろでも何かを少し乱暴に下ろす音と、うわっ、という声が聞こえた気がするが、気にしないでおく。
 カイリキーは既にさっさと階段を上がりきり、入り口の前で仁王立ちをしている。俺達が遅い、などと文句を垂らしながら苛々した様子で待っていた。
 ミミロップと言い、このカイリキーと言い、これだから雌という奴は――……? 出かかった思考が違和感に遮られて止まる。そういえばあの筋肉の権化の方は雄であったな。すっかり態度や立ち振舞いに馴れて洗脳されそうになっていた。
 とにかく、こいつらは小さな事やよくわからないことで一々機嫌を悪くするため扱いに困る。と、つくづく思ったのだ。
 ――いや、そういえば我が部下に扱いやすい者など一人として居ないな。カイリキーに付いて部屋の入り口をくぐりながら、気付きたくなかったことに気付いてしまった。歩きながら小さなため息が漏れる。恐らく俺の顔面は苦い笑いでいっぱいになっていることだろう。
「それじゃあ、開けるわょぉん」
 カイリキーはそう言い、どこから何時の間に持ち出してきたのか木製の脚立の上に乗り、ガラスの天窓をひょいと押し開けた。そして奥を何やらごそごそと手で探った後、太い蔓で編まれた縄ばしごを引っ張って下ろす。
「さ、どうぞぉん」
 促され、はしごに歩み寄り段の部分では無く、横の部分を掴んだ。段から段までの距離が俺には長く、普通には登れないのだ。一本の綱を登るようにやっていくしかないだろう。
「ちょっと待ってください」
 登ろうとしていた俺をロゼリアが止める。
「あのですね、縄ばしごでは僕やアブソルさんが登れないと思うんですが」
 それもそうだ。両手が薔薇になっているロゼリアは勿論のこと、アブソルの前足も、とても縄を不自由なく掴める構造はしていない。



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