第23章


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さらに加速し、クレセリアは上を目指す。こんな尋常ではない速度で上昇されては、本来ならば相当な風圧と重力を俺達は体に受ける筈だが、不思議とそれは感じなかった。
 頭上の新月はみるみる大きく広がっていき、着実に近づいているのがわかる。異様な外観が目視で確認できる頃には、黒色は頭上一杯に広がりその巨大さを嫌というほど見せ付けていた。
 悪意の核――新月に似たこの巨大な物体は不気味に脈打っており、表面にはどろどろした黒い泥状のものが流れ、血管のような細い管が張り巡らされている。まるで生き物の心臓のようだ。

「準備はよろしいですか?」
 悪意の核まで後十数メートルという位置でクレセリアは一時停止し、こちらに振り向き俺に覚悟を問う。
 危険なことなどとっくに承知している。しかし、既にこれしか道は無いのだ。俺は無言で頷いた。

「では道を開きます」
 俺の返答を確認したクレセリアは、頭部の三日月のような角を輝かせ、力を集中させ始めた。そして、クレセリアがしなやかに首を振ると、光の刃が悪意の核に向かい放たれ、核の表面を三日月形に切り裂く。
核は苦しげに大きく脈打ち、切れた管からは黒い霧のようなものが吹き出す。三日月形の傷口は光り輝き、泥を蒸発させ寄せ付けないでいる。
「参りましょう……悪意の中心へ」
 傷口に向かいクレセリアが飛ぶ。核の内部――はたして鬼が出るか蛇が出るか。


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