†*†*†*†*†*†*†*†*

負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

†*†*†*†*†*†*†*†*

[08]９月５日(新八)

†*†*†*†*†*†*†*†*

朝、万事屋のリビングに入った途端、我が目を疑った。

「私を助けて欲しいんデスマスク。」

万事屋に、あの国民的アイドル[お通ちゃん]こと寺門通がいる。

しかも僕らを頼って。

「私、今お見合いの話が来ているんでスーパーマーケット。

お相手はＩＴ企業の青年実業家で、もちろん私はお見合いなんて嫌なんですが、母は事務所の運営費の支援を期待して、是非にとこのお話をすすめたがっていますぐキスミー　ＷＯＷＷＯＷ♪」

何だって！お通ちゃんがお見合い！？

しかも事務所の為の政略結婚が目的って…。

「この際、どんな方法でもかまいま選抜高校野球。

私のお見合いを破談にしてくだ最年少プロボーラー！！」

・―・―・―・―・―・

泣きながら僕ら三人組に頭を下げるお通ちゃんをなだめ、落ち着いたところで僕は彼女を階下まで見送りに出た。

「安心してくださ井上陽水。

僕らが必ずお通ちゃんをお守りします唐揚げ弁当。」

「ありがトウキビウンコ。

じゃあよろしくね、【寺門通親衛隊隊長】殿！」

お通ちゃんはウィンクし、僕の腕に抱かれている金太郎のおでこにキスをして帰って行った。

僕は今、愛するお通ちゃんに頼られた！

全面的に信頼され、ウィンクを、僕だけに向けたウィンクをしてくれた！！

「お…お通ちゃん、今日もお仕事がんばってん荒川！

こっちは僕に任せ天才テレビくん！！」

僕は金太郎の小さな手を取り、お通ちゃんに向かってバイバイをさせた。

お通ちゃんも再度こちらを振り返り、笑顔でバイバイをしてくれた。

あぁ、かわいいなァお通ちゃんは。

いつかあの笑顔が、僕だけのものになればいいのに…。

・―・―・―・―・―・

お昼ご飯の片付けをしながら、僕はお通ちゃんの救出方法を考えていた。

「今回の件、お前に任せるわ。

…男なら、愛する女、テメェの手で救ってみろや。」

と、銀さんからの思いがけない委託があったからだ。

僕は俄然ヤル気になった。

しかしどうしたものか、なかなかこれという案が見付からない。

映画みたいに見合いの最中にお通ちゃんを拐うか？
う～んベタだなァ。

それとも相手の会社のコンピューターにウィルスをばら蒔くか？？
地味な嫌がらせだな、オイ。

お見合い当日の朝、相手にうちの姉上の卵焼きを食べさせに行くか。
ダメダメダメ！それじゃあ僕が殺人犯になっちゃうじゃないか！！

あぁ、やっぱり銀さんがいつも言う通り、僕は駄目なメガネの駄眼鏡なのかなァ…。

食後のお茶を煎れながら、僕は自分の頼り無さに溜め息をついた。

その時だった。

「スゲェな新八。お前もうアクション起こしたの？

なんだよ早ェな、オイ。」

銀さんがテレビのワイドショーの画面に向かって指を差した先には、

【寺門通極秘結婚＆隠し子！？】

というタイトルと共に、お通ちゃんと赤ん坊を抱いた男が親しげに話している姿が映し出されていた。

「え、あのコレ…この男ってもしかして…」

「新八アルね。」

酢昆布をクッチャクッチャと噛みながら、ソファーに寝そべっている神楽ちゃんが答えた。

『今朝お通ちゃんは、自分の子供と思われる赤ちゃんのおでこにキスをして出掛け、それに対し夫と思われる男性はお通ちゃんに向かって｢お仕事がんばってん荒川！｣と見送っていました。』

キャスターが、降って湧いた国民的アイドルの特ダネスクープを、誇らしげに報じている。

何て事だ。

僕の知らないうちに、思いもよらない計画が勝手に進んでいたなんて。

しかもこれじゃあお見合いはナシになるとしても、お通ちゃんの為になるどころか大幅なイメージダウンまっしぐらじゃないか！

僕としたことが、軽率だった。

スーパーアイドルのお通ちゃんがお忍びで来ている事ぐらい百も承知なのに、うかつにも一緒に外へ出てしまった上、僕の後ろ姿とはいえ写真を撮られてスキャンダルとして全国に報じられてしまった。

どどど…どうしよう…

冷や汗にまみれて狼狽えていると、キャスターの慌ただしい声が聞こえてきた。

『これより予定を変更し、寺門通さんの緊急記者会見をお送り致します！』

そして画面が切り替わり、マイクに囲まれたお通ちゃんがアップで映し出された。

「お通ちゃん、結婚しているというのは本当なんですか！？」

「あの赤ちゃんはお通ちゃんの子供なんでしょうか！？」

「あの男性は一体何者なんですか！？」

目を血走らせた記者達が、矢継ぎ早に質問を浴びせる。

しかしお通ちゃんは全く動じる事なく、落ち着いた様子で説明を始めた。

「今報じられている結婚、そして隠し子疑惑ですが、極めて悪質なデマでスピードスケート。」

その一言に、また記者達が食らい付く。

「ではあの男性は一体、お通ちゃんの何なんですか！？」

お通ちゃんの発する答えを待つ瞬間、僕は息を飲んだ。

「私の親衛隊隊長で、ずっと私を支え続けてくれた人…

そう

私の恋人なんデストロイヤー！！」

「えーッッッ！！僕がお通ちゃんのこここ…恋人～～！？」

僕はあまりに唐突なテレビ越しの告白に、泡を吹いてその場に倒れ込み、意識を失った…

・―・―・―・―・―・

目を覚ますと、すっかり辺りは暗くなり、時計の針は１１時を指していた。

お通ちゃんの恋人宣言の幸せを噛み締めながら、ゆっくりと重い身体を起こすと、傍らで安い焼酎を呑んでいた銀さんが僕の頭を撫でて言った。

「…何も言うな。そしてそれ以上何も聞くな。

お前のお通ちゃんを想う気持ちはどんなアイドルオタクにも劣らねェ事は、俺達がいちッッッ番よく知ってっから。

な。

所詮はアイドルとオタク少年、月とスッポンポンなんだよ。」

え、何？どういう事？

銀さんの言わんとしている事がイマイチ理解出来ず、神楽ちゃんの方を向くと、彼女は僕と目を合わせる事なく言った。

「さっき記者会見の後、お通ちゃん本人から電話がかかって来たネ。

『新八さんが流してくれたウソのスキャンダルに上手いこと乗じて、見事お見合いは断られましタイムリーヒット！

ついでに、私も彼と公然とお付き合い出来る事になって、超ラッキーでスルメイカ♪』

だとサ。」

は？彼？？だからそれは僕なんじゃ…

「記者会見で言ってた親衛隊隊長ってのはな、【寺門通親衛隊隊長】ではなく、【お通親衛隊隊長】…

つまり

お前らのライバル親衛隊の隊長って事らしいんだわ。」

「『彼がいる事、ずっとみんなに隠しててごめんなサイモン＆ガーファンクル！』

だってサ。

つまりお前との写真、利用されたって事アルね。

フッ…女なんてシャボン玉。

一瞬でもアイドルと良い夢見れたんだから、それで諦めるヨロシ。

お前みたいな童貞アイドルオタクには十分過ぎるくらい贅沢な夢アルよ。

それ以上求めるなんざ、身分をわきまえやがれ、この腐れ駄眼鏡がァァァ！！」

†*†*†*†*†*†*†*†*
[前㌻] [次㌻] ［*］ﾎﾞﾀﾝで前㌻
［#］ﾎﾞﾀﾝで次㌻ †*†*†*†*†*†*†*†*
[←戻る] †*†*†*†*†*†*†*†*
†*†*†*†*†*†*†*†*