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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[09]９月１７日(華蓮)

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「人に会って来るから遅くなる。」

そう言って銀時が家を出たのが夜七時過ぎだった。

そして今は九時。

こんな時間に会う人って誰？

それも遅くなるって、まさか…

「ちょっとコンビニ行って来る。金太郎お願いね。」

悪いとは思いながらも金太郎を神楽ちゃんに預け、私は外へ出た。

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不安を胸に抱え、私は歓楽街へ赴いた。

数多の店に溢れんばかりの酔客。

こんな場所で銀時を見つけるなんて、ウォーリーの何倍も難解だ。

しかしこの胸の不安要素を取り除くには、やはり銀時を見つけ出すしかないのだ。

私は歩いた。
とにかく歩いた。

いつも私が見廻って見慣れている地域のはずだが、今日はやけに大きく、呑み込まれそうな錯覚に陥る。

助けて…

お願い、銀時

他の女(ひと)のところになんか行かないで…

ウロウロとさ迷い小一時間。

小洒落た洋食屋から出て来た、見馴れた白髪を見つけた。

「銀と…」

私は思わず駆け寄り、声を掛けかけたが、数メートル手前で立ち止まった。

銀時の腕には

細く白い腕が絡まっていた。

「うそ…」

我が目を疑った。

銀時が女と腕を組んでいる。

それも長身で胸も大きい、グラビアモデル並みの綺麗な女。

「ちょっ…うそ…うそ…」

そう呟きながら、私は二人の後を追い掛けた。

信じたい一心で。

・―・―・―・―・―・

やがて二人は歓楽街の雑踏からは遠ざかり、人影まばらな地域に足を向けて行った。

「えっ！ちょっ…ま…銀時！？」

そう、ここはラブホ街。

ここを通るという事は、目的など一つしか無いし、理由など聞くだけ野暮といいものだ。

今、目の前で、信じたものが失われようとしている。

でも私は何も出来ず、物陰でただ足を震わせているだけの、駄目な女。

私には【銀時の妻】というれっきとした立場がある。

だけど私はそれを振りかざす事も出来ず、ただ涙を流すだけの、駄目な女。

「やだ、行かないでよ銀時…」

やがて二人はきらびやかな電球の灯るホテルの前に立ち止まった。

私達の信頼もこれまでか…

しかし、二人は立ち話をしていたかと思うとゲートは潜らず、銀時は女だけを残して立ち去ってしまった。

「入らなかった…」

私は瞬間的に脱力し、その場にへたり込んでしまった。

女は呆然と立ち尽くし、夜更けの歓楽街へ姿を消す銀時の背中を見送っていた。

その瞳は悲しく、しかし美しさを湛えていた。

やがて女はクルリと方向を変え、こちらの方に向かって歩いて来た。

ヤバイ！見つかっちゃう！！

私は思わず体育座りをして身を縮めた。

「知ってんのよ。

アンタ、華蓮さんでしょ。」

その声に驚き見上げると、例の女が目の前に立ちはだかり、私を見下ろしていた。

「ちょっと話さない？」

・―・―・―・―・―・

女に言われるまま付いていき、案内されたのは先程二人が出て来た洋食屋だった。

「見てたんでしょ、アタシ達がここから出て来んの。」

女はメニューを開いて私に差し出した。

「あの人、何頼んだか分かる？」

美しく切れ長の瞳が私に挑んだ。

迷う事なく、私はチョコレートパフェを指差した。

「ふふふ…流石ね。」

女はきれいなデコレーションの施された指先を眺めながら、話し始めた。

「アタシさぁ、フラれたわよ、銀ちゃんに。」

妖艶な唇から、彼女の心の欠片がポロポロとこぼれ落ちる。

「まずね、アタシ銀ちゃんとは松陽先生んとこの教室からの幼馴染みなの。

そう、つまりアタシは男。

ずっと子供の頃から銀ちゃんの事が大好きで、攘夷志士として共に活動していた頃、一度告白したの。

そしたらね、彼…

『俺もお前が好きだ。
ただし仲間としてであり、それ以上でもそれ以下でもない。』

って。つまりフラれちゃったのよね。

その後アタシは攘夷志士からは足を洗い、このかぶき町の住人になった。

銀ちゃんの好みになれるように髪も伸ばしたし、お化粧も覚えた。

そしてショーパブに勤めてお金を貯めて、ついに身体の建設・解体工事をしたわ。

全ては銀ちゃんに愛される為、それだけだった。

そして今日、ようやく銀ちゃんと会えたの。

身も心も女になって、彼に会いたかった。
そして初めては彼に抱いて欲しかった。

『一度でいいから』

そう言ってアタシは彼にねだったの。

そしたらね、彼こう言ったわ。

『俺は嫁さんもガキも、そして親友を裏切る事も出来ない』

って。

アタシ、もちろんショックだったわよ。

でもね、それとは逆に、『この人を愛して正解だった』とも思ったの。

もし流されるままにアタシを抱いたら、彼は[奥さんも子供も裏切る、しかも親友をも抱ける最低男]という事になる。

だけどあの人はそうじゃなかった。

アタシの知っている通り、一本スジの通った人だった。

そして別れ際、こう言ってくれたの。

『親友がキレイになるっつーのも悪くねェもんだな。

また飲みに行こうな。』

こんなはしたないマネをしたアタシなのに、親友のルールを壊したアタシなのに、あくまでもアタシを[親友]と呼んでくれる銀ちゃん…

やっぱりアタシの愛した男は最高の男だったって、再確認したわ。

アンタ、幸せモンね。

あんなイイ男独り占め出来るなんて！」

「じゃあ」と手を振り、彼女…彼…アレ？どっち？まぁどっちでもいいや。[あの人]は店を出た。

テーブルのグラスの水滴が滴り、笑い合う二人の侍の古い写真を濡らした。

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