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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[05]８月７日(山崎)

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いつもなら、子守り当番の人にはオムツやミルクの入ったママバッグしか手渡されないと聞いていた。

しかし今日のこのプラスαは一体…

｢母子手帳と問診票、バッグの外ポケットに入れとくわね。

金太郎の一ヶ月検診、頼んだわよ～。｣

本来なら母親が連れて行くべきであろう一ヶ月検診を、こともあろうにこの人は部下に転嫁しやがった。

彼女の言い分としては、

｢大江戸総合病院の小児科医、なんやかんや理由付けて診療報酬を水増ししてるらしいのよ。

近々詐欺容疑で逮捕状取るから、あんた偵察してきてよ。｣

というものなのだが、せっかちな華蓮さんの事だ。待合室での順番待ちが面倒臭いだけだろう。

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小児科の待合室には、金太郎と同じような赤ん坊が母親に連れられて、沢山順番待ちをしていた。

こんな場所に二十歳前後の青年が赤ん坊を連れて来れば、たちまち注目の的だ。

やはり今日、女装で来たのは間違いではなかった。

密偵である俺の変装、特に女装には｢女より女らしい｣と定評がある。

今日の化粧はノリも良く、また一段と艶っぽい。

金太郎を立て抱きにし、お母さん方に紛れて待合室のソファーに座った。

すると程無く名前が呼ばれ、診察室に招き入れられた。

診察室には松本と言うふてぶてしい顔つきの医者が、椅子にふんぞり返って座っていた。

なるほど、コイツだな。診療報酬の水増しをしてるヤツってのは。

｢よろしくお願いいたします。｣

俺は女性特有のシナを作り、ソソと向かいの椅子に座った。

松本は俺が持参した問診票をサラリと眺めた後、腕に抱かれている金太郎を一瞥し、いきなりとんでもない事を言い放った。

｢おたくの子、ソレ病気だね。｣

｢えっ！｣

松本はサラサラと何やらカルテに記入しながら続けた。

｢赤ん坊なのに髪の毛真っ白だし、クリンクリンのクセ毛だし、おまけに死んだ魚みたいな生きの悪い目をしている。

こりゃアレだ、アレ…

今ヨーロッパの辺で流行ってるとか言う…そう、【ダメダコリャ病】だわ。｣

オイィィィ～！！
何だその適当な病名！？
今考えただろうが、絶ッッッ対今考えただろうがァァァ！！

｢コレ治療して治るかもしんないけど、治らないかもしんない。

どっちにしろ長期間の治療になるけど…どうします？｣

ほーら来なすった。

有りもしない病名吹っ掛けて、延々治療させて金を搾り取るつもりだな。

そうはいくか！

｢先生、それをもし治療しなければ、どうなってしまうんですか？｣

にわかに飛び出した病名だ、答えられないに決まってる。

｢えっ～と、あ～…

そのうち白髪が半分黒くなって、顔に縫い目が出来ます。｣

何だよソレ！
例の天才無免許外科医だよね、あの人だよね、絶対！！
悪化どころか進化を遂げちゃってるじゃねーか！！

俺が不信感たっぷりな目で見つめると、松本は慌てて何かを取り出した。

｢いや～、ラッキーですよ奥さん！

実はこの病気は[指定伝染病]でしてね、治療を始めればここに書いてある指定のお店の商品が割引価格で手に入るという、選ばれし病なんですよ！｣

差し出されたのはチラシだった。

かぶき町内にある飲食店やブティックがズラリと名を連ねている。

その中には、俺の贔屓にしているスポーツ店も含まれていた。

なるほど。
ウソの病名でもって患者を脅していた上、地域の店舗にも癒着していたという事か。

診療報酬プラス地域からの賄賂…

なかなかやるじゃねぇか。

だがここで素直に治療を受け入れれば、その詐欺行為に加担する形になる。

事は慎重に進めなければ…

｢あぁ、そういえば、今日は何か『チラシ持参で全品半額』とかって言ってたなァ。｣

・―・―・―・―・―・

｢お帰りなさい！
アラ、ザキったらまたミントンのラケット買ったの？

本当に好きなのねェ。

で、どうだった？検診。｣

｢…すいません。

金太郎クンの白髪と天パと糸目に、長期の治療を施す事になりました…。｣

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