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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[17]11月22日(土方)

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運命を感じた。

これが世に言う

『ビビビッ！』

なんだと思う。

・―・―・―・―・―・

「今ネットで[お取り寄せ]するのにハマッてるんです。」

そう言ってザキがくれたのは、ビン入りのマヨネーズだった。

「俺は老舗の【ぴーきゅーマヨネーズ】しか食わねえ。」

一度は断ったが、ザキは「まぁまぁ、騙されたと思って」と、俺の机に勝手に置いて行きやがった。

まったく…相も変わらずお節介なヤツだ。

窓辺の文机に置かれたそれは、秋の風に似て黄色く艶めき、俺を誘った。

「…ちょっとだけだぞ。

一度だけ、一口だけだからな。」

なんだか浮気でもしているような気分に苛まれながらも、俺は【Ｙ子のマヨネーズ】と書かれたビンの蓋をひねった。

開いた瞬間、えもいわれぬ酸の風味と卵の香りが俺の鼻をくすぐった。

気が付けば、俺はそのビンの中身を貪り食い、空にしていた。

・―・―・―・―・―・

一体誰なんだ。

一体どんなヤツがこんな美味いもんを作っているんだ。

あまりの美味さにあの味が忘れられなくなった俺は、いてもたってもいられず自分専用のノートパソコンを開き、【Ｙ子のマヨネーズ】について調べ始めた。

すると、やはり今[お取り寄せ業界]では話題になっているらしく、10,000件以上も検索に引っ掛かった。

その数に少々驚き戦いたが、もう一度あの味逢いたさには勝てず、一件ずつシラミ潰しに読んで行った。

すると、数十件読んだあたりであのマヨネーズを作ったＹ子さんに関する書き込みを見付けた。

なになに…

◎『江戸在住の女性』

そうか。江戸の人なのか。

◎『あのマヨネーズを毎日食べるせいか、非常に肌がキレイ』

肌がキレイ？ほぉ～。

◎『あの細い指からあんなに美味しいマヨネーズが出来るのかと思うと、溜め息が出る』

へぇ～、指もキレイなんだ…。

◎『黒髪をひとつに束ねただけのシンプルな装いなのに、内面から美しさが滲み出ている』

え、そんなにキレイなのか、Ｙ子さんって…！

『実際に目の前で見た瞬間、光源氏の気持ちが分かる気がした』

光源氏!?
何、ソッコー手を出したくなるような美人って事か？
それとも自分好みに育てたくなるような若い女って事か？？

そして書き込みは最後の行となった。

俺は胸に何やらモヤモヤとしたものを抱いていたが、最後の書き込みを読んだ途端にそれが何なのかがハッキリした。

◎『マヨネーズをかき混ぜ終えた瞬間の笑顔はたまらなくキュート！思わず抱きしめたくなる』

ビビビッ！！

『Ｙ…子…さん！！』

あろう事か、俺はまだ見ぬＹ子さんに、運命を感じてしまったのだった。

・―・―・―・―・―・

天国に召したミツバに永遠の愛を誓っておきながら、大変申し訳ない事をしているのは百も承知だ。

俺はネットで調べあげた住所を辿り、今まさにＹ子さんに逢いに、いや、厳密に言えばプロポーズしに向かっている。

あんな美味いマヨネーズを作れる上、抱きしめたい程の美人と来たら、そりゃあ心奪われて当然だろうが！

光源氏じゃなくとも手に入れたくなるわｧｧｧ！！

そして辿り着いたのは、江戸は江戸でも俺の住む街中とは違い、閑静な住宅街にひっそりと隠れるように佇む一軒の平屋だった。

「こ…ここに、あのＹ子さんが…！！」

表札には二人の女性の名前があった。

[泰子]と[陽子]

さてどっちもＹ子か。
[マヨネーズのＹ子さん]はどっちだろうか。

俺はまだ見ぬ姿に想いを馳せながら、震える指で玄関のチャイムを鳴らした。

……

こういう時の待ち時間は、どうしてこうも長く感じるのだろうか。

俺は握り締めた拳の中に湿り気を感じながら、家人が出て来るのを待った。

秋だというのに、額には大粒の汗が滲んでいる。

すると数秒ののち、「はーい」と返事があり、ガラリと扉が開いた。

ついに、恋焦がれた運命の女性(ひと)、愛しのＹ子さんが目の前に…！！

「あっ…あの！！こちらにマヨネーズを作られたＹ子さん…

……え？」

玄関口では、

卵黄の入ったボールを抱えた老婆と、

マヨネーズの付着した泡立て器を握り締めた幼女が、

俺の汗だくの顔を穴が空くほど見つめていた。

いずれも髪をひとつに束ねている。

「いや、その……

マヨネーズ下さい。

マヨネーズだけでいいです。

Ｙ子さんとか、もういいですから……。」

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