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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[15]11月３日(山崎)

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局長に頼まれた洗濯用洗剤。

土方さんに頼まれた[くいっくるあいぱー]の替え用シート。

沖田さんに頼まれた食器用洗剤。

それから俺の歯ブラシ。

それらを買いに、大江戸マートへやって来た。

もちろんマイバッグ持参で。

「まずは局長の洗濯用洗剤…っと。」

俺は、自身のお気に入りである[ぽーるど]を手に取った。

これで服を洗うと、洗濯中はもちろん、干した後にもフンワリとフローラルな香りに包まれ、幸せ気分全開になれるのだ。

「あれ？山崎さんって[ぽーるど]派なんですか？」

聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは万事屋の新八君だった。

「やぁ、奇遇だね。君もおつかい？

……うっ！！」

驚いた事に、新八君の手には、マイバッグならぬマイカゴが提げられていた。

マイカゴ…それは天下のベテラン主婦でもかなりの手練れのみが有する資格を持つという、大変高度かつ大胆な買い物専用カゴである。

お店の入り口に重ねて置いてあるプラスチックカゴと同じ素材・同じ形をしているが、やはりその放たれる輝きは他の追随を寄せ付けないオーラがある。

やるな、新八君。

そしてそのマイカゴには、[あたっこ]が入れられていた。

ふ～ん。新八君は[あたっこ]派か。

確かに白く洗い上げる事にかけては、他社のものに比べて群を抜いている。

しかしそれは汚れを落としたわけではなく、蛍光漂白剤による視覚効果に他ならない。

つまり汚れの色を抜いて汚れが落ちたかのように見せているだけの事なのである。

しかも柔軟剤をうっかり入れ忘れると、ゴワゴワしてなんだか着心地が悪くなる。

だから俺はあまり好きじゃない。

「新八君は[あたっこ]派なんだね。

でもそれ、なんかゴワつかない？」

俺は出来るだけ嫌味を含まない、気さくな雰囲気で話しかけた。

すると新八君はちょっとムッとしたように眉頭を動かし、俺に問い返してきた。

「そういう山崎さんこそ[ぽーるど]ですか？

そんな甘ったるい香りさせてちゃ、ミントンやる時にやる気を削がれちゃうんじゃないですか。」

その瞬間、俺達の死闘の始まりを知らせるゴングが鳴り響いた。

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お掃除グッズコーナーで、俺は[くいっくるあいぱー]の替え用シートドライタイプを手に取った。

「へぇ～。山崎さんはドライタイプか。」

その声に振り向くと、そこには[くいっくるあいぱー]の替え用シートウェットタイプを持った新八君が仁王立ちしていた。

「甘いですよ、山崎さん。

真選組って言ったら男所帯、言わば雑菌の巣窟じゃないですか。

その床をドライタイプで拭いたって、落ちるのは精々裸足で歩いた足の裏の油ぐらいですよ。」

眼鏡の奥でつぶらな瞳を光らせ、勝ち誇ったように笑う彼に、俺は必殺技を繰り出した。

「あれ？万事屋って言ったら華蓮さんちだよね。

ということは、赤ん坊がいるってことじゃないか。

これから金太郎も寝返りしたり、ハイハイしたりするよ。

その時、まだ赤ん坊だから床をペロペロしちゃうよ。

あ～金太郎可哀想に。薬液を塗りたくった床を舐めて、苦くてペッペッてしちゃうんだろうなァ～。

それどころか、お腹痛くなってお医者さんに連れて行かなくちゃかなァ～。」

チラリと横目で見ると、新八君はウェットタイプを握り締め、悔しそうに下唇を噛んでいた。

よし、クリティカルヒット！！

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予想通り、次の食器用洗剤コーナーにも彼は付いて来た。

しかしお互いにまだ商品に手出しはしない。

牽制し合いながら、互いの動きを探っている。

新八君の手を見ると、俺より先に商品を手に取ろうかどうしようかと、行ったり来たりしている。

明らかな動揺が見てとれる。

よし、勝てる！！

俺は迷いの無い、潔い手つきで[ぢょい]の緑茶成分入りを取った。

「！！」

すると先手を打たれた事により、さらに動揺しきりの新八君も、慌てて[ママみかん]を掴んだ。

その瞬間、俺は勝利を確信した。

「おいおい、食器用洗剤の進化目覚ましいこの御時世に、まさかの[ママみかん]かい？笑わせてくれるぜ！

確かに量はたっぷり入ってるさ。それは認めるよ。

しかし[ぢょい]程の洗浄力はお有りかな？

コイツなら、カレーを食べた後の鍋に水を張って、そこにたった一滴垂らすだけでたちどころに油汚れを落としてしまうよ。どうだい？」

すると新八君はダンッと店内に響き渡るような激しい音で、地面を踏んだ。

「な…バッ…バババ…バカ言わないで下さいよ！

[ママみかん]はね、[ぢょい]なんか比べ物にならないくらい歴史が長いんですよ！！

その証拠にね、うちのおじいちゃんなんか『[ママみかん]買って来たゾー』って言って、手に持ってたのは[ふぁみりーふれっしょ]だったからね！

つまり食器用洗剤の代名詞になっちゃうくらい歴史があるって事ですよ！！」

ヤバイ、俺！

不覚にも、老舗の[ママみかん]に魅惑のストレートパンチをお見舞いされるとは…

クソッ、やられたぜ！

さすが新八君だ。

やはり伊達にマイカゴを慣れた手つきで提げてはいない。

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最後の戦場は、歯ブラシコーナーだ。

この大江戸マートは、口腔ケアに力を入れており、特に歯ブラシの数は江戸一番を誇っている。

俺にも新八君にも迷いは無かった。

相手の出方を見ることなく、俺達は同時に手を出した。

「……あっ。」

「……あっ。」

俺達が二人が手にしたのは、[びとりーん]の山切りカットだった。

「…好きなの？山切りカット。」

「えぇ。やはりこれじやないと歯の隙間の汚れをスッキリ掻き出せないんですよね。」

「そうそう、分かるよソレ！

特にスナック菓子、いわゆる【歯クソ菓子】！

あれは山切りじゃないとね～。」

「そうなんですよ！

ヘッドの大きさもコンパクトで、しかし小さ過ぎずと良心設計で…云々。」

結局歯ブラシで意気投合した俺達は、おつかいである事をすっかり忘れて談義に花を咲き散らかしてしまい、その後お互いの上司から大目玉を喰らう事となったのは言うまでもない。

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