†*†*†*†*†*†*†*†*

《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

†*†*†*†*†*†*†*†*

[11]１２月20日(沖田)

†*†*†*†*†*†*†*†*

やっぱり今日もだ。

やっぱり今日も華蓮さんは犯人を斬れなかった。

愛刀【百華】を手にして相手に突き付けながらも、結局は鞘に戻して改めて素手で殴る。

どうもこのところ、太刀筋に勢いが無い。

どうしたんでィ、華蓮さん…。

・―・―・―・―・―・

最近の華蓮さんらしくない振る舞いに、俺はいささか疑問が生じていた。

刀の手入れをしてないんですかィ？

いや、打ち粉をして懐紙で拭いているのを昨日見たばかりだ。

じゃあ体調が優れないんですかィ？

食堂であんだけ飯かっ食らってんだから、それもないだろう。

じゃあ何故…？

俺は女子隊長室へ行き、直接あの女に聞くことにした。

｢華蓮さーん、入りやすゼィ。｣

襖を開けると、華蓮さんはひっつめ髪で書類整理に追われていた。

｢あら総悟君、いらっしゃい。｣

一瞬こちらへ目を向けたが、すぐにまた書類へ視線を落とす。

忙しそうだから、また後にしますかィ…

俺は静かに襖を閉めて部屋を出た。

それから一旦自分の部屋に戻ってみたものの、気になって胸の辺りが気持ち悪くてしょうがねェや。

報告も兼ね、近藤さんに聞きに行ってみましょうかィ。

・―・―・―・―・―・

｢あぁ何だ。

気付いてたのか、総悟も。｣

近藤さんは顎ヒゲを撫でながらあっけらかんと答えた。

近藤さんもその事実を知っていたのか。

それならどうしてこの問題を野放しにしているんですかィ!?

局長のあいかわずの呑気さに、多少のイラつきを覚える。

｢あのまま放っといて良いんですかィ!?

理由を追及すべきじゃないんですかィ!?

今は良くても、いずれ最悪の事態に発展する可能性だってありやすゼィ。

『太刀筋に迷いが生じれば命を落とす』

…侍の常識でしょう。

俺の尊敬する近藤さんだが、今日は意見させてもらいますゼィ。｣

すると近藤さんは、逸らしたくなる程に真っ直ぐな目線で俺を見据え、言った。

｢所帯を持ったからさ。｣

所帯？

所帯と刀で斬る事に何のつながりがあるというんだ？

｢男子隊士の場合、所帯を持つと『家族を養わなければ』という意識と、『お前にも家族がいるなら、なぜソイツらが悲しむような事件を起こすんだ！』という犯人に対する怒りから、剣筋にむしろ迷いが無くなる。

ところが女性の場合は全く違うみたいだな…。｣

近藤さんは愛刀【虎鉄っちゃん】の柄にコロコロを取り付け、畳を掃除し始めた。

｢犯人の薬指の指輪や、懐から覗く子供の写真なんかを見ると、『こんなワルにも家族が待ってるんだよね』…って思っちゃってさ、斬れなくなっちゃうんだって。｣

コロコロを転がしながら、近藤さんは口元に笑みを浮かべた。

｢斬れないんじゃあ、もうあの女も役には立たねぇや。

外勤務は無理ですねィ。｣

俺はたぶん今、ものすごく意地悪い言い方をしていると思う。

そんな俺に、近藤さんは穏やかな表情のまま言った。

｢たぶん華蓮さん、

赤ちゃんが出来たんじゃないかな。｣

あ…赤ちゃん!?

いや、もう結婚したんだから出来たっておかしくはないのか。

しかし…

｢まだ本人からの報告は無いが、おそらく…な。

このところトイレの洗面所でよく見かけるし、あまり走らなくなったし…。

だけどあくまで憶測だから、こちらから『もう危険な外勤務はやめな』とは言えないだろ。

だから彼女本人の口から妊娠の報告があるまでは、現場で指揮をとってもらうつもりだよ。

どうせ彼女の事だ、十分納得いくまでは【百華】を手放さないだろうしな…。｣

近藤さんは何も考えていないわけでは無かった。

それどころか、むしろ俺以上に深いところまで突き詰めて考えていた。

さすが俺の尊敬する漢・近藤勲だ。

それに対し、俺はなんてちっぽけで狭い視野の男なんだろう。

いつかは近藤さんをも凌駕する、デカイ男になれるだろうか、俺は…。

†*†*†*†*†*†*†*†*
[前㌻] [次㌻] ［*］ﾎﾞﾀﾝで前㌻
［#］ﾎﾞﾀﾝで次㌻ †*†*†*†*†*†*†*†*
[←戻る] †*†*†*†*†*†*†*†*
†*†*†*†*†*†*†*†*