†*†*†*†*†*†*†*†*

《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

†*†*†*†*†*†*†*†*

[06]１０月１８日

†*†*†*†*†*†*†*†*

昨夜から、弟の総悟君は一睡もしてない。

今は意識を失い虫の息のミツバちゃんを、ガラス越しにただただ見守る事しか出来ず、自分に歯痒い思いをしているようだ。

憔悴しきった表情の彼にしばしの息抜きを…と、缶コーヒーを手渡す。

｢姉から聞きましたぜぃ。｣

彼から話し掛けてきた。

｢あんた、うちに新設される女子隊の隊長になるって話しですねィ。

姉もとても喜んでやしたぜィ。

『華蓮ちゃんが私の夢を叶えてくれる』

…ってねィ。

あんたに出会ってからの姉は、血色も良くなって、一段とよく笑うようになった。

俺が見舞いに行ってもあんたの事ばっかり話すから、いい加減耳にタコでさァ。

今まで病弱でなかなか同世代の女の子と友達になる機会も少なかった姉だから…

…あんたが最初で最後の親友なんでさァ。

だから自分の夢を叶えてくれたのが他でもないあんたで、本当に嬉しくてしょうがなかったんですぜィ。｣

ミツバちゃん…そんなに私に強い想いを持ってくれていたなんて…

私はそれにちゃんと応えられていたかしら。

ミツバちゃん…今となってはその答えすら聞けないよ。

彼女の願いである真選組に行くと決めたものの、２７歳で転職し、キャリアアップを謀るというのは、うっかりしていると女としての人生を考える時期を逃してしまい、気が付いたら結婚出来ずに終わってた…という結果を招きかねない。

２７歳…非常に難しい、微妙な年齢だ。

正直、その点にまだ迷いが生じていた。

だけど、ミツバちゃんの私に託した熱い想いを聞き、

今、目が覚めた。

ナースキャップを投げ捨て、渾身の力を込めて指を真っ直ぐに伸ばし、額に手をかざし、

｢一番隊沖田隊長！
山田華蓮、これからミツバ様の命を受け、女子隊隊長着任のお話しを受理いたします事を決めました。
御指導の程よろしくお願いいたします！！｣

総悟君に向かって敬礼をした。

総悟君は驚いた様子だったが、すぐに敬礼で応えてくれた。

その瞬間…

待合室のドアが開き、体格の良い粗野な風貌の男性が入って来た。

着ているものから真選組である事が伺える。

・―・―・―・―・―・

夕方、業務を終えミツバちゃんの元へ駆け付けた。

待合室に入るが、いるはずの総悟君も、さっき来た大きな男の人もいない。

その代わり、飲み干した缶コーヒーの空き缶と、メモが残されていた。

【姉上・女子隊長へ

行って参ります。

一番隊隊長　沖田総悟】

…どこへ行ったんだろう…。

こんな状態のミツバちゃんを置いてまでも行かなければならない所なのだろうか。

行き先など分かるはずもなく、私はミツバちゃんをただただ見守る。

・―・―・―・―・―・

深夜、ミツバちゃんが奇跡的に意識を回復した。

ＩＣＵに入り、ミツバちゃんの側に寄る。

一般病室での何気無い会話に始まり、芸能人の話、ファッションの話、それぞれの生い立ち、愛する人の事

…そしてついには私の人生の選択まで彼女と決めてしまった。

まさに私とミツバちゃんは運命共同体といえよう。

そんな彼女との日々を振り返り、見つめ合うと、元に戻れない切なさに自然と互いに涙が溢れ出す。

意識はあるとはいえ、もう命の炎は消えかけている。

早く、総悟君早く帰って来て！！

ミツバちゃんがもうすぐ旅立つよ…。

｢…姉上！！｣

勢いよく開いたドアから、傷だらけ血まみれの総悟君が、倒れるように駆け込んで来た。

｢遅くなってごめんなさい。

どうしても、どうしても行かなければならない仕事があったんでさぁ。

…待たせて本当にごめんなさい。｣

｢…偉いわ、総…ちゃん…｣

ミツバちゃんは言葉を発する力など露ほども残っていないはずなのに、最愛の弟に最後の力を振り絞って語りかけた。

｢あなた…は…私の…自…慢の…弟…よ…｣

ミツバちゃんは総悟君の頬を撫でながら、

静かに瞼を閉じた…

†*†*†*†*†*†*†*†*
[前㌻] [次㌻] ［*］ﾎﾞﾀﾝで前㌻
［#］ﾎﾞﾀﾝで次㌻ †*†*†*†*†*†*†*†*
[←戻る] †*†*†*†*†*†*†*†*
†*†*†*†*†*†*†*†*