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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[05]１０月１７日

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昼前からミツバちゃんの容態が急変した。

バイタルが乱れ、かなり危険な状態だ。

家族に連絡を取る。
とはいえ、御両親はとうの昔に亡くなられているので、婚約者と弟の総悟君くらいのものなのだが…。

総悟君はすぐに青い顔をして病院に駆け付けた。

彼にとってミツバちゃんは、姉であり、母代わりであり、唯一の肉親である。
故に彼は他人には計り知れない、特別な感情を抱いている。

彼はＩＣＵに入り、白いベッドの上で点滴やら機械やらに繋がれているミツバちゃんの手を握り締め、

｢行かないでくだせぇ…

僕を一人にしないでくだせぇ…

僕も姉上を一人にしないから…

アイツみたいに置いてきぼりにしたりしないから…｣

と、消え入るような声で語りかける。

残り少ない力を削りながら、返答するかのように懸命に瞬きするミツバちゃん。

毎日の点滴のせいで痣だらけになり、血管もボロボロでほとんど刺せる場所が残っていない細い腕が痛々しい。

婚約者は仕事を優先したという。

愛する女が生死の縁をさ迷っている最中に、商談をしているらしい。

お見舞いに来た際に数回会った事があるが、礼儀正しく好青年という印象を受けた。

しかしこういう場面でその人となりが見えてくるものである。

ミツバちゃんが人生最後に選んだ男は、家族の命も顧みない、非情なビジネスライクだったようだ。

私も親友のミツバちゃんのそばにずっと付いていたいという思いはあったが、やはり特定の患者に個人的な感情を持って行動し、業務に支障を来す訳にはいかない。

ミツバちゃんだってそんな事は望んじゃいないはずだ。

辛い感情を振り切り、元ミツバちゃんのいた病室へ後片付けをしに戻る。

　・―・―・―・―・―

扉を開けると、見慣れない男性が一人立っていた。

あれ？この服は真選組の…。

｢沖田ミツバさんのお知り合いの方でしょうか？｣

声を掛けると、食べ掛けで開いたままの激辛煎餅の袋を眺めていた男性はようやく私の存在に気付く。

｢いや、昔の知り合いだ。
今は関係ねぇ。

もう帰るから…。｣

彼だ。きっと彼だ。

ミツバちゃんを田舎に一人残して行った、土方とかいう男だ。

直感的に把握した。

今なら婚約者も来ていない、今ならまだミツバちゃんの意識もある。

今のうちに彼とミツバちゃんを会わせてあげなくちゃ！！

その一心で彼を引き留める。

｢ミツバさんは今ＩＣＵにおられます。

かなり危険な状態ではありますが、まだ意識もあります。

お願いします！

ずっとあなたの事だけを待ち続けたミツバさんに、せめてもう一度だけ会ってあげてくだ…｣

｢俺はこれからミツバの婚約者を斬りに行く。

それなのにどの面下げてミツバに会えってんだ？｣

…どういう事？

斬りに行くって…ミツバちゃんを奪いに行くって事かしら…？

疑問に満ちた顔の私に、彼が言葉を続けた。

｢…あんただよな、女子隊長にスカウトされてる強ぇ女ってのは。

力だけでなく、余計な正義感も強ぇのな。

ミツバも相当な信頼を置いてるそうだが…。

どうせ俺は二度とここへは戻っちゃ来れねぇだろうから、あんたにだけは喋っちまおうか。

あいつの婚約者は、表向きはライトな貿易商だが、裏では拳銃の密売をしている。

相当腹の黒ぇ、太ぇ野郎だ。

その密売の決行が明日の晩だ。

奴はミツバよりも商談の方を優先しやがった。

真選組としては密売を許せねぇ。

そして俺自身はミツバを看取ってやろうとしねぇアイツを許せねぇ…！！

…だから…斬る。

…そんな俺がミツバに会えると思うか？｣

先程までギラギラと猟犬のような眼で語っていた彼が、急に悲哀に満ちた眼差しに変わった。

ミツバちゃんへの想いがこもった熱い眼を、私は引き留める事が出来なかった。

何も言えない私を残し、彼は足早に部屋から出て行った。

相思相愛ながら、伝え合う事なく散って行く二人を、私はただただ見送る事しか出来ない。
なんて無力なんだ…。

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