本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[08]chapter:2-3


家の中には重い空気が流れている。
 
ヴァンは落ち着かず台所でカチャカチャと音をたてながら皿をいじくっていた。
ラルは一切口を開かずテーブルについている。
 
シリウスが何を考えているのかヴァンには分からなかった。
僕に入軍するか否かを決めろ?答えは決まってるさ。
入らない。
ただそれだけだ。
シリウスだって僕の気持ちは分かっているはずだ。なのになんで返答を僕にまかせる?
ヴァンは知らず知らずに苛立ちを感じていた。
 
「ヴァンくん」
「は、はひぃ...?」
 
いきなりの呼びかけにヴァンは思わず声が裏返ってしまい顔を赤くした。
 
こんな状況ヴァンは生涯初めてだった。ましてや女性と2人きりだなんて。ヴァンは考えたこともない。
 
「すまないが水をいただけるか?」
ラルはそう言った。
「あ...はい...」
 
ヴァンはコップに水を汲み、テーブルの上に置いた。
ラルは水を口に一含みし、コップを手に持ったまま話しだした。
 
「弟思いの優しいお兄さんだな」
 
ヴァンは驚いた。ラルが優しいような哀しいような、そんな眼をしたのだ。
ヴァンはラルのその眼に何故か親しみを覚えた。
 
 
シリウスは村では変わり者とされていた。愚か者と呼ぶ人さえいるほどだった。
その理由はシリウスの甘すぎる性格にあった。
 
捨て犬、捨て猫はもちろん、森で怪我をした猪までを拾ってくるしまつ。
誰かに金を騙しとられても怒らず「いい、いい」とその人の役にたつならならなどと言って丸く収めたこともある。
 
村のみんなはシリウスを文句の言えない「弱い人間」と呼んだ。
 
ヴァンもそう思っている。
 
そんなの損をするばかりである。
 
でもヴァンはそんな兄が、
 
好きだった。
シリウスは文句を言えないのではない。
文句を言わないのだ。
 
本気で心から相手のためだと考えている。
そんなシリウスがヴァンは好きだった。
 
ラルがシリウスを「優しいお兄さん」だと言ってくれたことにヴァンは大きな喜びを感じていた。
 
「うん!僕、兄さんが大好きだから」
 
ヴァンははっとした。
恥ずかしげもなくこんなことを口にしている自分に驚いた。ヴァンはまた真っ赤に赤面した。
 
「そうか...」ラルは一言だけそう言って黙ってしまった。
 

ラルの眼はさっきと変わっていなかった。
 
とても悲しんでいる...そんな感じもとれる眼差しだった。
 
「ユスティティアとはどんなところか知っているか?」ラルは急に冷静な顔になってヴァンに話しかけた。
ヴァンはビクッとした。何故かラルのこの眼だけは落ち着かなかった。
「こ...国軍ですし...もち...もちろん国を護ったり、戦争に出向いたり...とか...ですか...?」
 
ヴァンはとても大切な質問なのかと考えを張り巡らせたが思いつくのはこれぐらいだった。
でも他の人が考えてもこんなイメージがほとんどであろう。
ラルはまたコップを口に運んだ。
窓を見ると辺りはもう夕闇をおびて朱く染まっていた。学校はもう終わっているだろう。
シリウスはいつ帰ってくるのだろうか。
少し間をおいてラルは再び口を開いた。
「ヴァンくんの言うとおり、国軍はその名の通り『国の軍隊』、国のために戦う仕事だ」
 
ラルにそう言われなぁんだとヴァンは肩を撫で下ろした。
 
「だが、今きみが言ったことであっているのは『国軍』についてだけだ」
 
ヴァンには意味が分からなかった。「国軍」=「ユスティティア」のはずである。
ヴァンは聞き返した。
「あの...よ、よく...言ってることが分からない...のですが...」
 
「...今は...まだ話せない...君が入軍を了承するまではね...今、私が君から聞きたいのは...命を懸ける...その覚悟があるのか...それだけだ...」

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