本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[11]chapter:3-2


「シュバイツー?シュバイツー...?」
 
ヴァンは辺りを見回したがシュバイツらしい影は見当たらなかった。
 
鎖が壊れてしまったのだろうか。
ヴァンは鎖を手にとってみたが鎖は引きちぎられた様子も壊れた様子もなかった。
鎖の繋がれた杭を見ても無理に引っ張ったような形跡はない。
むしろ誰かに外された。そんな感じだった。
 
「シュバイツ...」
 
ヴァンは何故か胸騒ぎを覚えた。
何か嫌なものが胸の中で渦巻いている。
 
「兄さん...」
気付くとヴァンは森の方へと駆け出していた。
 
 
 
 
 
 
「グルルルル……」
「なんだ..こいつは...!!」
 
ラルの背後にはこの世の生き物とは思えない怪物が口を開けて唸り声をあげていた。
頭までの高さは3メートルはあるだろうか。体長にいたっては優に6メートルは超えている。
人一人など造作なく飲み込めそうな口。そこから見える黄みがかった牙にはヌメヌメとしたヨダレが溢れ、月明かりのせいで鮮明によく見える。
これを怪物といわずなんといえようか。
 
怪物は人間の顔程もある眼球を光らせ、ラル達を見ていた。
「こ..これは...」
 
今まで動揺を見せなかったラルも今回ばかりは顔に驚きを隠せなかった。
 
「グルルルル…グァアァァアァァァアアァアァァァァ!!!!」
「マズい...!!」
 
怪物は雷雨のような唸り声をあげてラル達に襲いかかってきた。
ラルは瞬時に危険を感知し、シリウスを担ぎ上げ後ろへと飛んでかわした。
いくら痩せ体系だと言っても体重は60近くはあるシリウスをラルは軽々と担いでいる。
ラルはシリウスを地面に下ろし、剣を怪物の方へと向けた。
 
「なんでこんな怪物がこんな森に...!」
「ぐっ……ターナーさん…」
「大丈夫です。もし動けるのなら私に構わず逃げてください」
 
ラルはすでに平静を取り戻していた。
今の状況からのこれからとるべき行動、これまでの経緯、怪物への対処、シリウスの防護、全ての情報がラルの頭の中でまわっている。
「さて..まずは...」
「だ、大丈夫なんですか?その剣をあなたはちゃんと扱えるのですか?」
 
怪物を目の前にし、シリウスはかなり動揺しているようだった。
「………大丈夫です。シリウスさん、体の方は...?」
「な、なんとか...!」
「ここは私がなんとかします。貴方はできる限り全速力で逃げてください」
 
 
 
 
 
 
ヴァンは心の中のモヤモヤが晴れずにいた。
 
もう今までの日常が戻ってこないような気がする。
もう今までのシリウスとあえなくなくなる気がする。
 
「兄さん……」
 
ヴァンは森の入り口の前に立った。
暗い。
 
ヴァンは首をブンブン横に振って恐怖を紛らわした。 
 
月明かりが道を照らしていたが、ヴァンの恐怖は消えなかった。
むしろ入る前より恐怖は増していた。
 
 
 
ガッ
「うわぁ!!」
 
ヴァンは足元に何かを引っ掛け、そのまま道の横の草村に突っ込んでしまった。
恐怖を薄らげるために目を細め視界を狭くしたのが仇になったのだ。
 
かなりおもいっきり転んでしまったことを、体の激痛が証明していた。朝の階段で転んだ痛みの比じゃない。
 
「いっ..痛ぅ...な..何......」
 
ヴァンは痛みを我慢して、どうにか身体を起きあがらせようとした。
 
「え......?」
 
信じられないものが目に映った。
 
ヴァンは顔が一瞬にして青ざめ、心臓が張り裂けそうなほど鼓動が高まった。
 
ヴァンの目の前にはビルがいた。
 
いや、転がっていた。
ヴァンはホントにそう思った。
ビルの顔は目を開けたまま固まっていた。口は半開きになっている。
暗闇で肌の色は分からないが、まるで生気を感じない。服はバリバリに引き裂かれている。
 
「ビ……ビル…?」
 
返事はなかった。
 
当たり前だ。
 
何が当たり前?
 
 
最悪な事実が頭に浮かぶ。
でもとても受け入れられない。
 
 
 
目の前で人が死んでいる。
 
 
 
「あ……あ…あ…あぁ…」
 
 
声にならない。
 
心臓の音がバカみたいに聞こえる。
 
 
ヴァンは立ち上がり、その場から逃げるように走り去った。
 
恐怖で嘔吐しそうになる。
ヴァンは訳も分からず走った。

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