☆幕末人と暮らす方法☆【完結】


[05]【第5話】彼の本質





新撰組副長・土方歳三は、策士としても有名だが、花街を沸かせた色男としても知られる。


祇園、島原、北野…


あちこちになじみの太夫を抱えていたという。



それほどまでの好色家だ、女と見れば手当たり次第に粉振りかけてまわるのだろう。


てっきりそう思い込んでいたが、それはことごとく裏切られた。



今、勝負下着完全武装でベッドに横たわる私に背を向け、いびきをかいているのは、その土方歳三なのである。



女なら誰でも良いというわけではないってか?

それとも私だからノーサンキューだってか?



いずれにしろ私を抱く気など毛頭ありませんって事だな。


チクショウ。


永らく男性からのニーズが無かった蜘蛛の巣だらけのこの身体が、久々に離陸体制に入ったというのに、コックピットに操縦士乗りやがらねぇ。



「俺はセスナ機は趣味じゃねぇ。

ジャンボ機専門だ。」



そう言いたいのか。



「しばくぞ、このイモ侍が!」



彼に向け、呟いた。



・―・―・―・―・―・



今朝は仕事を休んだ。


まさか昨日現代にやってきたばかりの幕末人をうちに一人で放っておくわけにもいかないからね。



朝ごはんを調達する為、彼と連れ立ってコンビニへ行ってみた。


案の定、初めて目にする食べ物達を前に、彼は目を白黒させている。


その中で特に彼の興味を釘付けにしたのは、肉マンだった。


温蔵庫の中で湯気を立てる肉マンを、ガラス越しにガン見している。


私はそれを4個購入し、店を後にした。



うちに帰りアツアツの肉マンを彼に手渡すと、嬉しそうに眺めたあと大口でかぶりつき、ムシャムシャと夢中で食べ始めた。


2個ずつ食べるつもりで4個買って来たのに、気が付けば3個が土方さんの口に入っていた。


わき目もふらず頬張り続けた彼だったが、



「昼メシもこれがいい!」



と、いたくお気に入りのようだ。



「じゃあ土方さん、自分で買いに行ってみる?」



ものは試しと、彼にコンビニまでお使いを頼んでみた。



「肉マン5つだな。よし、任せろ!

池田屋に踏み込むが如く[こんびに]で役を果たして見せるぞ!!」



彼は高々コンビニに行くだけの事に無駄とも思える程の意気込みを表明し、うちの玄関を出た。



うちからコンビニまで徒歩5分。


買う物も既に決まっているのだから、すぐに帰って来るだろう。



その算段でゆっくりお茶を煎れ始めたが、彼は10分もしないうちに息切らして帰って来た。



「あらあら、随分と早かったのね。そんなに急がなくても…」


「見てくれ、牡丹さん!

俺はちゃんと番頭に『5つ』と注文したのに、『オマケだ』と言ってもう1つくれたぞ!!」



オマケ?

個人商店ならいざ知らず、コンビニでそんな事あるのかしら?



「『(肉マンが)好きになったからまた買いに来た』と言ったら、番頭のおなご、顔を赤くしてオマケしてくれたんだ。」



あぁ、そうか。


この男、無意識に甘い言葉を発しては女が自然にオチるという、[天然物タラシ]なんだわ。


という事は、無差別に粉振りかけて回ってるって事じゃないのさ。



じゃあ私にも振りかけろやァァァ〜〜!!



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