☆幕末人と暮らす方法☆【完結】
[04]【第4話】歳三の大冒険
むらしまを出ると、彼はひどく憤慨し、
「貴様、おなごの分際で男の頭を叩いたな!
俺を何と心得る!?」
と罵った。
腹の立っている私も負けじと言い返す。
「そのおなごのうちで世話になっているのは誰ですか!
調子に乗らないでよね。」
すると彼はプライドを刺激されたのか、鬼の形相で歩き始めた。
「もうお前の世話になどならん!
さらばだ!!」
「どこ行くのよ!?
うちはそっちじゃないわよ!」
「うるさい!構うな!!」
彼は早足でずんずんと歩いて行き、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
フン、何よ!
今朝突然うちにやって来て服やら靴やらに金かけさせといて、その挙げ句に家出!?
冗談じゃない!
私が土方さんのファンだからってワガママが通用するとでも思ってんのかしら。
調子ぶっこいてんじゃないわよ!
私は大買い物の袋を両手に下げ、一人でうちに帰った。
現代のお金も知識もありゃしない幕末人だもの。
まぁどうせこの世界で頼る人間なんて私しかいないんだから、夕方になりゃ腹減らして帰るわよ。
そう高をくくって夕飯の準備をし、彼の帰りを待っていた。
しかし待てど暮らせど帰る気配はない。
ついに時計は夜中の11時を差した。
さすがに私も心配になり、彼を野放しにしてしまった事を後悔した。
警察に相談すればたちまちマスコミに知れ、土方さんが晒し者にされてしまう。
かといって私が探しに出ている間に帰って来たら、うちに入れないでまた出て行ってしまうかも…
ごめんなさい。
私に保護責任があるにも関わらず、あなたを知らない世界でほったらかしにしてしまった。
お願い、私が悪かったから帰って来て!
すると玄関のドアノブがガタガタと音を立てた。
「…っ!!」
私は玄関へ駆けて行った。
「土方さん!!」
ドアを勢いよく開くと、そこには彼が俯いて立っていた。
「…すまん。
やはりお前がいなければ俺は未来の世界では暮らせぬらしい。」
「寒かったでしょ。
さぁ、早く入って。」
彼はバツの悪そうな顔をしながらも、大人しくうちに入った。
そして冷えきった冷たい手で、私に何かを差し出した。
「コレをもらった。」
封筒には[給与]と書いてあり、一万円札が入っていた。
「道を歩いていたら、知らない男に『お前の顔なら相当稼げる。うちの店に来ないか』と誘われたので、付いて行ったのだ。
俺はそこでおなごと話しをし、酒を飲むだけで良いと言われてその通りにしていたのに、『おなごに酌をしろ』と言われ、『おのこたるもの、おなごに酌など出来るか!』と断ったのだ。
そうしたらコレを渡され、追い出されたのだ。」
えぇーッッッ!!
何ソレ、もしかしてホストにスカウトされちゃったの!?
しかも女への酌を断ってクビって…
全く土方さんらしいわ。
「お夕飯にしましょう。
ビール飲む?」
冷えたビールをグラスに注ぎ、彼に手渡すと、すっくと立ち上がり、声をあげた。
「♪ハイ!
飲〜んで飲〜んで飲んで
飲〜んで飲〜んで飲んで
飲〜んで飲〜んで飲んで、一気!!
続いてドンペリコール行ってみよう〜!!」
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