☆幕末人と暮らす方法☆【完結】


[03]【第3話】夢の同棲生活





新しもの好きの彼は、その日のうちにいくつかの物を覚えた。



最初は炊飯器。

スイッチ一つでしばらく待てば、ホカホカのごはんが炊ける。
それを見た彼は、



「このカラクリの中に小さな人が入っていて、吹き竹で火を起こしているのか?」



と言った。
面倒なので、



「うん。」



と答えておいた。



次に洗濯機。

これも



「中で女中が洗っているのか?」



と聞くので、



「そうそう。」



と答えておいた。



私達にはごく一般的な物でも、彼にとっては珍しい物ばかり。

目を輝かせては「コレは?」「こっちは?」と聞いて回る。

特にお気に入りなのは電子レンジの様子で、先程から色々な物を温めては喜び、はしゃいでいる。



一通りの家電品を見終えた彼は、その後テレビに釘付けになった。


平たい箱の中で、人々が動き、喋り、歌い、踊る。

初めはビクビクと正座をして強張って見ていたが、段々とリラックスしてきた様だ。

あのクールガイ土方が、口元をほころばせてテレビを食い入るように見ている。



あぁ、人に自慢したい。
「私、あの土方歳三と同棲してるのよ」

と大声で叫びたい!

そして皆から羨望の眼差しで見られ、そしてそして…



「牡丹さん」



彼の呼び声に、ハタと妄想の世界から引き戻される。



「俺のこの服は、今の時代にはそぐわないのではなかろうか…

俺もてれびの中の人達のような服を着た方が良いのか?。」



そうだ。

この世界で暮らすからには、こんな軍服でいつまでもいられては困る。


そういえばうちに元カレのパーカーとジーンズがあった、と思い出し、タンスから引っ張り出し、試しに着せてみた。



「……!!」



なんという事だろう。

青いパーカーにストレートのジーンズは、彼が幕末からやって来たとは思えないほどに馴染んでいだ。


さすが天下の土方歳三!かかかかっこいい!!



あまりの素敵オーラに軽いめまいに見舞われながら、夢見心地の私は言った。



「土方さん、服や下着を買いに行きましょう。」



そして二人で向かった先は、私御用達のお店【ファッションセンターむらしま】。

ここなら服も靴も下着も、全てが一度に安価で揃う。

先程彼がうちでジーンズに履き替える際、チラリと横目で見たところ、どうやらまだパンツではなく褌を締めているようだった。

幸いにして最近、褌がファッションとして見直されているらしく、様々な色や柄で発売されている。

現にこの店でも[クラシックパンツ]という名で陳列されていた。



「土方さん、どれにしますか?」



私が手渡すと、彼は眉間に皺を寄せた。



「何だコレは?
褌は白いと決まっているだろう!」



軽くキレ気味の彼は、ヒョウ柄とチェック柄の褌を陳列ワゴンに叩き付けた。

大人気なくも、私はカチンときた。



「何言ってんですか。
白褌?そんな古臭いモン売ってるわけ無いじゃないですか!
そんなの買い求めに来るのはどっかの田舎侍くらいのモンですよ。」



私の強い口調が頭にきたらしく、彼は先程の2枚を荒々しく手に取り、買い物カゴに放り込んだ。



それから私と彼はしばらく口をきかなかった。


私は服と靴をサクサクと選び、さっさとお会計に向かった。


するとそれまでブスッとして付いて来ていた彼が、レジの店員さんに向かって言い放った。



「オイ番頭。これだけ沢山の品を買うんだ、少しは勘定を負けないか。」


瞬間的に私の手のひらは、彼の後頭部を平手打ちにしていた。



.

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.