あと5日


[06]「生きる」


「すいません…こんな事ばっかり言って。…どうして自分はこんな目に遭ってるんだろうって…毎日想うんです。」
楓は涙を拭いながらそう呟く様に話した。
「…辛いのは分かるよ。でも…楓が居なくなって悲しむ人もいると思うな。」
なるべく髪を切るのにも集中しつつ、話す。
「いないですよ…両親も先生も気付かない振りばっかりして。私の事なんてかまってる暇無いんですよ…。だから…私が死んでも何も残らない。」
まだ高校2年生なのに、こんな事を考えさせられる娘がいるんだ…そう思うと胸が痛む。
「きっと…そんな事は無いよ。…俺は由紀子が居なくなった時、辛かったし、悲しかった。人が死ねば…必ず悲しむ人がいるはずだよ。」
「じゃあっ…!私が死んだら…太陽さんは悲しんでくれますか?」
楓は鏡の中の自分と俺を見つめながらそう尋ねてきた。
「…悲しむだろうね。きっと…俺1人じゃないはずだ。」
そう言いながら切った髪の毛を払う。
「…ほら、出来たよ。」
「ありがとうございます…。」
楓は髪の事と俺の言葉2つに礼を言った。
「…私…生きます。勇気を出して両親にも話してみます。だから…また来ても良いですか?」
「もちろん。待ってるよ!」
楓は優しく笑って帰って行った。
「生きる」…そう決めた楓の命があと5日で消えてしまうなんて事…あっていいのだろうか?
やっぱり俺は…。
心の中でまた葛藤が始まった。




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