〜第5章〜


[09]朝8時02分


今朝は朝ごはんを僕が作った。たまたまイチゴヨーグルトがあったので、それとハムとレタスとマヨネーズを挟みこんだ簡単なサンドイッチをテーブルに並べる。牛乳もあったので、今食器棚から滅多に使わない3個目のコップを取り出した所だ。

清奈も7時に目が覚め、朝食をリビングに運ぶ手伝いをしてくれている。
先程のあの寝言は清奈に話さないことにした。そのほうが清奈も都合がいいだろうし、あれは僕の心の中にそっとしまいこむほうがいい。

でも、あれではっきりしたことがある。


「絵夢を起こして来るわね」
「あ〜清奈、それは止めといたほうがいい」
「なんで?」
「あいつは起こそうとすると抵抗するぞ」
「大丈夫よ、そんなの。ベッドにしがみついてなかなか離れないんでしょ?」

違うんだな、それが。




「あはははははは」
「……え? ちょっと、うそっ!?」
「あははははははあはははははは」

そう、絵夢は睡拳の達人。今まで何度も自身で再確認しているのだが、あれは間違いなく眠ったままであり、寝相がわるいだけなのだ。

「……ふっ!」

清奈は顔面に飛んできたパンチを首を左に傾けてやり過ごし

「これでどう!?」
清奈は絵夢に向かい突進、だが絵夢はうまく体を半回転してそれを回避、直後回し蹴りが清奈を襲う!

清奈は下にしゃがみ、絵夢の蹴りが空を切った。
清奈が絵夢に右ストレートっておい! 怪我させるなよ!

だが同タイミングで絵夢も左ストレートを――


ゴッという鈍い音と共に、拳どうしが相殺しあった。

絵夢が尻餅をつく。
その瞬間

「はっ!?」

尻餅の衝撃が効いたらしく、ようやく目を覚ました。

「あれ? あれ? 何してたんだっけ?」

いや、清奈とガチンコで格闘してただろうが。

「ねえ、悠」

なんですか。

「これから絵夢は私が起こすわ。朝の丁度いい準備運動になること受けあいじゃない」
「へ〜じゃあ、よろしくね、てへっ」

お前が言うな絵夢。
これはきっと言外でかなり呆れられてるぞ。





とまあこうして僕たち3人はテーブルを囲んで朝食を食べている。

「絵夢、口の周りになんか付いてるわよ」
「え〜? う〜」

清奈は側にあったティッシュを手にして、口の周りを吹いてあげた。
本当に新鮮な光景が目の前に広がる。

「ちゃんと行儀良く食べなきゃダメでしょ」
「あはは、ごめんなさ〜い」

まるで母と子だ。
僕はいち早く朝食を済ませ、時間割りを合わせていないことに気づき僕は自分の部屋に戻った。

既に布団は綺麗に畳んで押し入れに戻してある。
料理は下手でも、掃除にかけてはお手のものらしい。こんな清奈なのに自分の容姿は格別気にかけていない(もっとも、可愛いことこのうえないが)のは不思議なものだ。

でもそれは、過去の話。

なんとなくそういうオーラが発せられているからかもしれないが、少なくとも清奈は自己の容姿を気にし始めている。

『どうにも最近、あの子は体裁を気にするようになった。身だしなみを整えるのは大切なことだと十分心得ているが、どうして女子(おなご)はあれほどにも手間をかけるのか……』

これは少し前、フェルミが言ってた台詞。

きっと、それは僕の為なのだろう。そう思うと
げっ、何ニヤニヤしてるんだ僕は。キモいぞ、僕。

通学カバンを開け、時間割りを見て教科書やノートを出し入れしていると。



何かが転がり落ちた。

「ん?」

それを見てすぐにそれは何かを思い出した。



『これ、悠くんに似合うかなって思って……』


僕が綺麗に、わざわざ別のポケットに入れ、ハンカチでくるんで入れていた銀色のアクセサリー。
かなりかっこよく、事実僕はこれを付けて見て自分にとても似合っていると思う。

それはそれだけ、僕を見てくれていたということ。

同時に、僕の背中に戦慄が走った。

なんだ?
ネブラか?
いや、これは……。


「悠」

清奈が後ろにいる。

「それ、なに?」

激昂を内に秘めているのがはっきりと分かる。

「こ、これは……」

言葉に詰まる。
言ってはまずい気がするのだ。

『……すきだよ』

あの言葉を聞いてしまった以上、いや、あの瞬間から

時には静かで
時には激しい
火花を散らす戦いが勃発しようとしていた。


「これは……昨日空川さんから貰ったんだよ」

背中に走る気配が更に高まる。
嫌な汗が流れだした。

「そんなに、大事なの? わざわざハンカチに包んでまで」

清奈の問いつめが続く。

「人から貰ったんだし、乱暴に扱ったら失礼……」
「空川さんに失礼だと思われたくないんだ?」

僕の言葉を、清奈が攻撃を剣で軽く受け流すように、遮った。

「う……べ、別にいいだろっ!」
「よくない、全然よくない!」

バッと清奈が僕の背中に乗っかる。

「っで!」

僕の手から無理矢理強奪した清奈。



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