〜第5章〜


[08]朝6時49分F


――――――――――――

暖かな空気を吸い込み、僕はゆっくりと目を開く。
気持ちを落ち着かせてくれるような仄かな香り。それが僕を眠りから覚めさせた。

「って、わ……!」

危うく大声でぶっ飛ぶ所だった。
昨日言ったのに……全く。でも、本気で起こったりしないよ。

今日ぐらい清奈の好きなようにさせよう。

僕は横になったまま左に体を向ける。
清奈は右を向いていた。

ああ
あの時以来だ。

サーベルと戦ったときに、合体した時に一瞬密着したあの時。
帰りのバスの中。

規則正しい寝息を立て、その寝息で清奈の黒髪が、ふるふると、揺れる。

「ん?」

いつのまにか手が繋がれていた僕の左手を、キュッと握る清奈。

「おいおい……」

誰だよ、昨日顔を赤くしながら一人でも寝れるって言った奴は。

時計を見た。

6時50分にまもなくなろうとしている。いつもより遅い。そろそろ朝食の準備をしなくちゃ、と思ってベッドから抜けようとしたその時に

「ゆ……う……」

ハッと清奈の方を向く。

寝言か。

いっそう左手に力が込められる。

「ゆう……ゆ……う……」

僕の夢を見てるのか。











「ゆ……」


スッと、どこからか風が吹いた気がした。

梅雨の明けを知らせる、カーテンから射す太陽の光。少し開いている窓から流れてきた心地よい風。

「……う……」


優しさと温もりを得るために、彼女は走ってきたのかもしれない……。

この「時」の為に……。







「……すきだよ」


ある夏の朝
僕が生きる未来に、確実に刻みこまれた一瞬の台詞を添えて。

もう、どこにも

湿り気を引き寄せる雨は無くて、

ただ在るのは、

幸せを顕現する一つの光景だけ。

屋根から昨夜の雨水が滴り落ち、一筋の虹が窓に浮かびあがった。



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