〜第5章〜


[03]朝6時49分A


「どういう意味ってそういう意味よ。こっちだって恥ずかしいんだから2度も言わせないでよっ!」

あの清奈が……
本気か?
冗談を言うような人間じゃないよな、清奈は。
いや、これは流石に清奈も言いやしないだろう。
いや、現に言ってるよな。

「で、どっちなわけ? 行っていいの? だめなの?」
「いや、別に来る分は構わないけどさ。急になんでだよ」

そうそう、どういう理由か聞かなければならない。あの清奈がどうして……。

「そ、それは……」

また関係ない方を向く清奈。
そして少しの間黙りこんだ。

「……そ、そうよ。お前が鍵を持っていて狙われている以上、常に一緒にいないとダメでしょ。お前みたいなドジな奴なら寝首とかかかれるかもしれないじゃない。まったく……世話が焼けるんだから……!」
「なあ、清奈」

僕は心の中でクスリと笑って、言った。

「別に来なくてもいいよ」「え……?」
「僕の家には妹がいるからさ。一般人にタイムトラベラーの存在を知られたらマズいんだろう? 多分妹はこう言うと思う。『この人って誰?』って。その時になんて答える?」
「そ、その時は……そう! 友達って言ったらいいのよ」
「友達が、毎日僕の家で過ごすなんておかしくないか?」
「それは……だから……だから……」

段々と声が小さくなる。
なあ、僕と清奈以外の全人類に聞きたい。
この場のイニシアチブ……すなわち主導権は、僕にあるよな?

「清奈の理由は、寝首をかかれないように僕が寝ている間ネブラを監視する、だったよな? じゃあさ、毎日来る必要があるよね。毎日僕の家に来るのに、友達じゃおかしいって思うのが普通じゃない?」
「……」

清奈はまた下を向く。
今度は泣いているわけじゃない。
照れているような怒っているようなその顔を、僕に見せるのが頂けないのだろう。

「……から」
「え?」

今、清奈が何か言った、が小さくて聞こえない。

「今、なんて?」
「だから……いたい、から」
「もうちょっとはっきり言ってくれるか?」

実はまあ、もう聞こえたりしているわけだが、ここは、敢えて、な?




「悠の側にいたいから!」


大きな声で叫んだ清奈。
僕がここで「はい、よく言えました」なんて言ったら、一気にカオスワールドに入りそうなので思い止まる。

「そっか……分かった」
「べ……別に私はね! お前に無理強いしてるわけじゃないわよ。
無理なら無理って言えばいいじゃない!」
「じゃあ、無理」
「って、な……!」
「だって散らかってるし、僕の家」

僕はそのままゆっくりその場から去る。

「……ちょっと!」

清奈が走って追いかけて来た。

「待ってよ……」

僕はそのまま置いて帰る……わけは無く、清奈の方を振り返った。

「分かったよ」

僕は、清奈に余計な気遣いをさせないようになるだけ自然を装って言った(本心はもう……ハッチャメチャ)

「清奈の言ってることは正しいからね。僕の父さんや母さんも殆んど家にいないし、大丈夫だよ、きっと」「じゃあ……行っても構わないのね?」
「ああ」
「本当?」
「うん」
「ほんとに本当?」
「……うん……って清奈、どうした?」
「なんだ……それならそうと早く言ってよね!」

と、機嫌が良いのか悪いのか分からない様子で言う。ただ一つ言えるのは、清奈は今までに無いオーラ……そう、なんていうか……
どぎまぎしている。

「まあ……まあさ、とりあえず僕の家に……」
「さっさと行くわよ!」

清奈は
さっと僕の左手を繋いで走り出した。

「ちょっ……!」

通学カバンをゴトゴト言わせて、僕たち二人は走り出す。


「清奈……ちょっとこれはっ!」
「何よ」
「手ぇ……何で繋ぐんだよ!?」
「別に何だっていいでしょ!」

さすがにこれは僕も恥ずかしすぎる。
再びいつもの駅に戻り、駅には人が戻ってきた。

その人達、道にいる人達、あの人もこの人も振り返る。
そんな視線を全く気にすることなく駆ける僕達。
手をぎゅっと握りしめて。目の前にいる清奈が、微笑んで。
黒髪を夕空に乗せて。







「はあ……はあ……」

駅の切符売り場まで来てようやく止まった僕だが、清奈は常人とはかけ離れた身体能力だということをすっかり忘れてました。
最初は、嬉し恥ずかしな気持ちが勝っていたのでまるで気づかなかったが、段々と心臓が抗議を始めてきた。清奈に「清奈! もうちょっとゆっくり……」と言おうとしたらげほげほ……。

「どうしたの?」

不思議そうに訪ねて来た。もちろん今のは清奈のペースだったわけで、当人は全く息を切らしていない。

「ちょ……早すぎるって……足」
「足?」

その途端ムッとした顔で清奈が答えた。

「なっさけ無いわね。お前それでも男なの?」

いや、男女差別だろそれは

「分かったわ」

ん?
なにが?

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