〜第5章〜


[02]朝6時49分


「先輩……良かった……死んだんじゃないかって……思いました……」

ハレンも緊張が解けたお陰か、代わりに目から涙を流していた。

「馬鹿ね、ハレン。冗談でもそんなこと言うものじゃないわ」
「それでも……でも……!」
「分かってる。心配してくれてありがとう」

私は、ハレンを安心させるため、微笑んで見せた。

「あと……」
《ユウ……》

悠も体を再び起こした。

「悠……お前は」

なぜか
今の悠とはまともに顔を合わせられない。

「私を……助けてくれたんだよね」

悠は、



笑顔で

「当たり前じゃないか。仲間なら助けるのは当然だろう? 清奈」





「仲間……」
《ユウは、十分戦いを示した。もう分かっているのだろう?

貴様はもう、一人では無いということを》

フェルミのその言葉を聞き私は、自分の今に気づいた。

「先輩!」

ハレンの声。

《セイナ》

パルスの声。

「清奈」

そして、悠の声。


悠が手を伸ばした。

その手を
掴んでみたくなった。
私はもう……我慢しなくてもいいのかもしれない……。

左手にあるフェルミを手放して、その手が

悠と、重なり合う――

すると

「え……?」

私の手は引っ張られ、体を引き寄せられ、
そして
悠の体と重なりあった。


「悠……?」
「清奈……僕は清奈のことを」

悠も言葉を選ぶように、途切れながら言う。

「昔のことも……今のことも……全部含めて、僕が守る。


もう二度と、辛いめに逢わせたりしないから」

自分の身も守れない癖に……なんていう感情は、全く起こらない。


そうか。


もう私と悠の間は変わってしまったんだ。


「そう……じゃあ」

こみあがる物を抑え、
悠と目を合わせる。
逃げないよ。 目をそらさないよ。

「その言葉……信じていいの?」
「……うん」

呪標を手にして、私を助けたんだ。
私みたいな……生意気な人間を。
何も強がることなんてない。
悠も、私を見てくれている。

たったそれだけのことだけで、私は、こんなにも幸せで満ちている。

「……清奈?」

私は悠の目から視線を外し、下を向く。

「……見ないで」

悠は

「分かった……見ないよ」
そういって、抱きしめてくれた。

強くなりたいって思って、私が我慢していたものが、私の中に積もっていたものが

瞳から溢れて外に流れていくようだ。
それが
あの日から数えて、初めて落とした、涙だった。


――――――――――――

「分かったのはそれだけ?」
「うん、それぐらいかな」

僕はあの戦いで得られた情報を、洗いざらい清奈に話した。
シヅキの復活の為には、鍵が必要。だから、これから先も僕たちは狙われるということ、シヅキは無刻空間と呼ばれる所にいること、そして何より、シヅキはイクジスが操られた裏の姿だということ。

「じゃあ……ネブラの根源はシヅキじゃなくて、更に奥にいるわけね?」
「そうみたいだよ。あの子は嘘をつくような子に見えないし」

僕たちは、ひとまず2007年に戻り、学校の中にいた。

「となると……少なくとも私と悠は常に危険に晒されているのね……シヅキ、そしてその奥にいる……」

「お前たち、ここで何をしている」

急に清奈の話に割り込んできたのは

「あ……駒場先生」

ハレンの担任。鬼教師の駒場だった。

「下校時間は既に過ぎている。速やかに下校するように」

それだけ言って、さっさと立ち去った。
超がつくほどの堅物だ。

「そういえばもうこんな時間なのね。早く帰りましょう」

教室に置いたままの荷物を取りに戻り、僕たちは下足ホールに向かう。

その途中

「おう、お前らか。もう子供は帰る時間だ、寄り道せずにさっさと帰れよ」

校内を見回りしていた瀬戸先生。このおっさんに注意されるのはしゃくだったが、もういいや。







「じゃあ相沢くん、先輩、また明日」

ハレンが通学カバンを両手で持ち、雨が止んだので傘を左腕にかけながら、校門から左に曲がり帰っていった。

清奈も確か左で、僕は駅に向かうから右だ。

清奈と並んで歩いていた僕は、校門にさしかかろうとした所で

「じゃあ、清奈。また明日……」
「待って」

清奈の声に反応して僕の足は止まった。

「どうか、したか?」

清奈が何か言いたそうな顔をしている。
でも心の中で何か躊躇を感じているように見える。

「どうしたのさ?」
「いや、悠……あのさ……」

次の瞬間
僕は目玉がぶっ飛び出る程のセリフを聞くことになる。

「悠の家……行ってもいい?」








はあああああああああ!!??


「ちょっ……それってどういうことだよ……」

動悸が激しくなってまいりましたあ!

せ、せせせせ、清奈さん!?

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