〜第4章〜 黒の男


[09]昼12時37分


「相沢くん、お待たせ」

程なくさくらちゃんが出てきた。

「あ、この子ってもしかして相沢くんの妹ですか?」

「あ〜うん」

絵夢、みっともないから僕の胸辺りを頬擦りするのは止めろ。

「かわいいですね」

「でもちょっと生意気な所もありますよ」

僕が苦笑して言う。

「む〜。生意気じゃないもん! お兄ちゃんが絵夢に優しくしないからいけないんだよ?」

とまあ絵夢のツッコミが飛び、まさにそのツッコミをツッコミたい気分に駆られるが、そこはまあ今は目をそらしておこう。

「相沢くん、羨ましいです。私、一人っ子で兄弟がいないもので……」

「へ〜。そうなんだ。でも、そんなに兄弟って羨ましいものかな?」

「一人っ子だと、家にいるのは父さんと母さんだけですから、私以外は皆大人だし、テレビとかでよく見る大家族の特番とか、賑やかでいいなあって思うんです」

「そうか……僕は物心がついた頃と重なって絵夢が産まれたものだから、一人っ子の気持ちなんて分からなかったけど、そういうものなんだ」

「私だけなのかもしれないですけど、兄弟は大切にしていくのが、いいと思いますよ」

いいこと言うなあさくらちゃん。
「確かに空川さんだったら、いいお姉さんになれそうですね」

「そ……そうですか?」

「当たり前じゃないですか。空川さんみたいな優しい人なら、なれるに決まってます」

「……ありがとう、相沢くん」

「ね〜ね〜お兄ちゃん」

絵夢が会話に割り込む。

「この人ってもしかして〜お兄ちゃんの彼女?」

違いますが何か?

「ほら! 顔に書いてあるもん! お兄ちゃんはこの女の子、好きなんでしょ〜!」

ばっ!!

思わずさくらちゃんの方を見る。

「え……え? え?」

さくらちゃんも、絵夢のまさかの発言でかなり戸惑っている。

「違う違う、絵夢、この子は同じクラスメートの子だ! 何勝手なことを言ってるんだよ!」

「え? 同じクラスだから好きなんでしょ?」

だから!
それはっ!!
絵夢!!
たのむから空気を読め〜!!

「あ……相沢くん」

さくらちゃんは左手で右手の肘を掴み、恥ずかしそうに視線をそらしている。
いや、さくらちゃん。
間に受けてます?

「あ……あの……」

「は……ははははい!」

汗がダラダラ流れるのだが、誰か止めていただきませんか?

「……本当……なんですか?」
「いっ!!」

その質問、答えなきゃいけないのか?
いや……それはだな……
どう答えるべきなんだ?
あまりにも急すぎる展開に、僕の頭はなかなか動かないのですが。
だから……なんてゆーか、それはだな、それは、あーうーあーうー! ぎゃあああああああっ!!

落ち着け〜落ち着け〜
深呼吸しろ、深呼吸を。
さくらちゃんが好きか?
当たり前だろうが! 99%の男子が好きだと答えるだろう。しかし、今こんなところで言っちゃっていいのか!? どうなんだ!?

よし、よし、よし
息を吸え〜
すう〜
はあ〜
吐いた。

本当の事を言ってやろうじゃないか!
相沢悠、17才、17才にして境地に立たされております。しかし、僕も男だ!
ようし、よーーし!

「そ……空川さん!」

僕は今にも逃げ出したい足を必死で堪えて、言う。

「僕は……!」


――――――――――――

「はあ……」

雨の中、私は傘をさし歩道を歩いていた。

《結局、無駄足だったわけだな》

「そうね、図書館もそうだし、市役所でさえ有力な情報は無し。タイムトーキーの歴史の修復機能って、本当に徹底してるのね」

私は例のシヅキの情報を調べていた。
私の予測が正しければ、シヅキは一度この辺りに姿を表している。

第一に、ここ五月原市はネブラによる汚染が著しい地域だ。世界を目に向けてもここほど汚れた所はない。
第二に、私はグルームのセリフを聞いた。

『旅人殺しは、シヅキ様が2人の憎きタイムトラベラーによって封される前に、製錬なさった武器だ』

シヅキは、封印されたとグルームは言った。どこでまでかは分からない。しかし、この五月原が最もネブラの影響を受けていることを考えれば、ここでシヅキが現れ、そして封印されたと予測するのは可能だ。

シヅキが現れ、ここは非常に大規模な揺らぎが発生したはず、何か手掛りは残っていないか調べたが、何も見つからなかった。

公園の時計を見ると12時を少し過ぎた所だ。

「学校に戻るわ。また作戦を練り直しね」


ちょうど通りかかったお店に(コンボミニ……だったかしら?)入る。

イチゴジャムパンとイチゴ蒸しパンと、イチゴ味の棒がついた飴を手にとり、もう一つイチゴジャムパンを取る。そして飲み物が……。


《セイナ? どうした、早く選ばないか?》

「……無い」

《何がだ》

「イチゴオレが無い」

《我慢しろ》

「やだ」

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