〜第4章〜 黒の男


[04]朝7時58分


足立さんはドタバタ動いて僕からススッと離れていくが

「あ……やあ!!」

転がっていた円柱状のペン立てに足を滑らせ、おもいっきり後ろに尻餅をついた。

「あ、いたたた……」

足立さん……ちょっ!!
足閉じて!
スカートの中がぁ!!

青の水玉模様の足立さんのぐはぁ!!

「あ! ちょっと見ちゃ……!」

外れかけたメガネをかけなおして、焦って手で足立さんのそれを隠す。顔を真っ赤にしてこっちをじっと見ている。

「わ……私っ、しゃ……喋っちゃった! お父様に怒られちゃうう!」

さっきまでの不思議ちゃんオーラはどこへやら、ドジッ娘オーラが急速拡大。デレデレエクスブレス、出発進行!!(足立さんによる不意打ちのお色気攻撃により、多少表現がおかしくなっていることをお詫びするっ!)

「ちょ……ちょっと落ち着いて足立さん! 僕はちゃんと秘密を守るから大丈夫だから、な? な?」

「ほ……本当ですかぁ? 秘密守ってくれますかっ?」

僕に涙目で寄ってくる足立さん。僕の肩を持って前後に振る。首が、うがががが。

さっきまでのあの足立さんの雰囲気はいったい……?
「守るから! だから体を揺らすのは止めてくれ」
「あ……ごっ、ごめんなさい!」

それにしてもなあ……。
あの寡黙、メガネ、不思議ちゃんの足立さんがここまで変身するなんて、それこそ魔法みたいだな。メガネが外れて素顔が見えた、が、これもまた他の女子に引きを取らない、グッドテイストな顔だったな〜〜。

うぐ、そろそろ己の精神にストップをかけねばなるまい。思考停止ってことで。




1時間目は芸術、僕の学校では芸術は音楽、書道、美術の中から選択して授業を受ける。そういうことなので、僕は美術を選択することにした。


入学すぐに買わされた画材用具一式を手提げ鞄に放り込んで、美術教室に向かうことにした。その途中に。

清奈が席に座り、何やら難しい顔をしながら、随分と分厚い本を読んでいる。

「何やってるんだ? 清奈」

話しかける。

「ちょっと調べたいことがあるだけ。お前はさっさと授業に行きなさいよ」

本に目を落としながら話す清奈。この本はどうやら、五月原市の100年の歴史が記されている本らしい。でもその本、図書室の貸出禁止の棚に入っていたはずだが?

すると、授業開始のベルが鳴る。
「やべっ! 遅刻しちまう」

慌てて教室から出て、美術教室に向かう。しかし清奈は動く気配が無い。

「清奈?」

「芸術には興味無いし、1時間目はここに残っとく」

「え……いいのかよ? 授業をサボるなんてさ」

「サボテンが何って?」

「サボテンじゃない。サボる、動詞だ。今の清奈みたいに理由なく授業を休むことだ」

「失礼ね、お前。理由はあるわよ」

「……理由って、その本読むからだろ?」

清奈は本を閉じ、90度方向転換し僕と目を合わせる。
「あのね、私はネブラの根元を見つけたかもしれないからそれについて調べてるの。授業を受けるほど暇じゃないわけ、分かる?」


「う……うん」

「何か分かったらお前やハレンにも伝えるから、お前はさっさとやるべきことをやりなさい。19日に間に合うわけ?」

再びこちらを見る清奈。
ちょっとニヤニヤ笑ってるぞ。
間に合う自信は無いが、それでも

「ま……間に合わせるに決まってるだろ! 見返してやるぐらい強くなってやるからな!」

自分でも虚しく感じるが、気持ちで負けてたら勝てるものも勝てない。

「そう。まあ頑張りなさい」

清奈、表情と台詞が矛盾してるぞ。
そんな表情でその台詞を言ったら「無駄だと思うけど」っていうニュアンスが入るだろうが。

「安心しなさい、お前にも勝機があるように、私はバトルモードを封印するから」

「べ……別にいい。そんなハンデは。清奈だって、本気で相手してくれないのは嫌だろ? 僕も嫌だよ」

「本当にお前は……弱いものいじめは私の趣味じゃないの。これでもお前の体の心配をしてるのよ?」

弱いものいじめかよ。
いいもんね。清奈がバトルモードに変身せざるを得ないぐらい強くなってやるからな。見とけよ!


新美術教室へと走って向かう僕。廊下の窓から降り注ぐ雨で、朝なのに薄暗い。学校の白い電灯が無理矢理辺りを明るくしている。
新美術教室は、僕が清奈とハレンと初めて集まった所とはまた別の教室だ。昔はあそこで授業をしていたらしいが、老朽化により増改築が施されて新しい美術教室が出来た。だが、つけやきばの教室だけあって

「遠いんだよな、くそー! 今月こそは無遅刻無欠席を徹底する予定だったのによ!」

ようやく到着する。
走ったのに到着まで5分もかかった。
もうすでに授業が始まり12分か13分が経過している。嫌だな……入るの。
というのも美術の先生が……

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